プリムラの呼ぶ春 //220221四行小説

 今冬最後の雪が降る。頭上の雪雲が通り過ぎれば、春がやってくるのだという。うっすらと積もり辺りは白色に染まっているのだが、真冬とは違ってやはりどこか春に近付いていることを感じる。耐寒性のプリムラが紅色に縁取られた黄の花を咲かせていて、遠い空の向こうには確かに春があることを教えている。
 プリムラの花を撮ろうとスマートフォンを向けると、花の映った画面に雪が落ちて六花が咲いた。綺麗な結晶は画面の熱ですぐに小さな水滴になってしまったけれど、脳裡に雪の花の形はしっかりと残っている。冬の花は空から咲き、春の花は地上に咲く。冬の花だった水滴を撫でるようにして画面に触れると、プリムラが撮れた。雪の間から可憐な花びらを覗かせる、可愛らしい春だった。

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