マガジンのカバー画像

四行小説

143
だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

犬に毛布を借りた話 //211229四行小説

 あまりの寒さに犬の毛布を借りた。こたつは出していないし羽織るものは近くにないしまだ部屋も暖まっておらず、暖を取れそうなものがその毛布しかなかったのだ。比較的新しく冬物で元々は人用に販売されているものだから、問題なく使えるはずだ。
 一応犬に一言言って、借りることにする。犬は他のもふもふした場所にいて今は使っていないので大丈夫。一瞥するだけで顔を背けたから、了承も取れたはずだ。
 そろりと毛布を拝

もっとみる

指先の冬 //211228四行小説

 雪に触れる。思いの外柔らかく、思いの外冷たくて、本格的に冬が来たことを指先で知る。

ふくふくら雀 //211227四行小説

 ふくら雀はふくふくと、白の積もった南天に止まる。身に詰まったものは熱か福か、それとも幸か。
 呼び寄せようとクッキーの菓子くずを地に撒けば、まんまと雀は降り立った。さぁ食えと見守れば、ばっさばっさとやって来たるはドバトであった。羽ばたきに煽られた雀は鳴き声残し遠くへ発った。
 福とは自ら引き寄せようとすれば遠退くらしい。地を啄むドバトを見ながら、共にクルクルと鳴くことにする。

翼のない馬 //211226四行小説

 悠然と野を駆ける馬に翼がないことを誰が嘆こうか。彼らは存在が既に神秘的であり、一挙一動一投足全てにおいて洗練されて美しい。しなやかに鍛えられた筋肉は収縮と弛緩を繰り返し、足をバネにして驚異的な速度を出す。その足が翼に劣るわけがない。目まぐるしく変わる風景の先には明確な目的地があり、誰よりも早く達するには芝を踏みしめ進むしかないのだ。

サンタはキャラまで用意しない //211225

 サンタクロースにスマブラを貰ったけれどキャラが少ないこれはおかしい。友達のスマブラにはいっぱいキャラがいて、愛用していたキャラさえもまだいない。どうやらサンタは内容までは把握していないらしい。全キャラ揃ったスマブラが欲しいと願えばよかったと今なら思う。とはいえストーリーモードはやってみたら案外楽しかったので、サンタが内容を把握していなくて良かったと考え直す。

ホールケーキアンサンブル //211224四行小説

 地元で有名な美味しいパン屋がケーキも美味しいことはあまり知られていない。
 明日の朝ごはん用のパンと残っていたらケーキもと思って立ち寄ったパン屋は、思った以上にケーキが残っていた。パン屋に行く人はパンを求め、ケーキを求める人は一筋下に下りたところにあるケーキ屋に行くのが道理だろう。実際、今会計に行った仕立てのいいスーツのおじさまも、ショーケースのケーキには目もくれなかった。あんなに美味しいのにい

もっとみる

夜のシャンプー //211223四行小説

 チャイムが鳴ってホームルームが終われば、誰より先に教室を出る。待ち合わせているわけではないのに、いつからか君は学校を出て細い道を曲がってすぐの十字路で待ってくれている。隣のクラスはいつもホームルームが短いから、大体いつも僕が待たせることになる。
 待ち合わせているわけではないから、「お待たせ」なんて言葉はかけない。お互いにそう思っているから、あたかも偶然会ったかのように「おつかれ」と短く挨拶をし

もっとみる

虫のいない植木鉢 //211222四行小説

 虫がいないから冬が好き。
 そう言ったのはどの友達だったろうか。玄関の前で視線を植木鉢にやれば、ハオルチアが葉を広げている。冬は休眠期だから、最近あまり動きが無い。そういえば夏の間には週一であげていた虫除けも撒いていない。夏は虫が隙間にいないか入念に観察していたから、今は気楽なものである。
 虫がいないだけで、植物への心配は大分減る。春には一段と大きくなってくれるだろうかと、静かな緑と春を待つ。

触れない月 //211221四行小説

 君は不意に空を向いた。目線の先にあるのは低い位置にある丸い月で、薄く雲がかかっていた。雲は月明かりに照らされて淡く白んでいる。冬の月は冷たくて、触ればサラサラとした感触をしていそうだ。
 おそらく生涯触ることの無いであろうそれに、君は見とれているようだった。真っ直ぐな視線が、月の表面を撫でる。僕にとっての月は君で、触れない僕は君の名を呼ぶ。こちらを向いて視線が交差し、触られたのは僕の心臓の表面だ

もっとみる

布団の底 //211220四行小説

 布団の中には魔物が棲んでいて、いつも足を掴んで離さない。魔物の息は暖かく、一度触れば力が抜けてされるがままになってしまう。這い出すことも起き出すことも出来なくて、毎日のように敗北する。
 布団の底の魔物と目が合って、諦めるように仰向けになる。仕方ない。魔物には、麗らかな春の陽気と日曜日の空気がないと勝てないのだから。

美しさの所在地 //211219四行小説

 美しいと思っていても、彼ら自身は美しくしようと思っているわけではないのだろう。
 蛍と惑い。
 鬼灯に隠れ。
 花火と遊び。
 月夜を愛でる。
 あまりに美しく目を離せないでいるが、本当に美しいのは彼らが美しいと思っている心そのものであり、真摯で真っ直ぐな有り様ゆえに溢れる物である。
 洗練された美しさは、同時にこの世のものではないような得体の知れなさが付きまとい神かと見紛う。神は目の前にいる。

一万歩の花 //211218四行小説

 歩くために歩くという矛盾しないことをしながら、一歩また一歩と歩いている。画面上の世界は花に満ちているが、実際の世界は空気に排ガスの混じる灰色の大通りだ。
 頭の中で二つの世界を重ね合わせる。あちらこちらに花が咲き乱れ、踏まれても枯れない花は強くて美しい。花びらの舞う世界を歩くのは楽しくて、不意に目に留まったコンビニにも大きな赤いポインセチアが咲いている。
 「君たちもポインセチアが好き?」と後ろ

もっとみる

新しい吊り橋は叩いたら綺麗な音がした //211217四行小説

 今までやったことのないことに手を出すのは怖いが、同時に胸の高鳴りも感じる。一種の吊り橋効果にも通ずるものがあるように思う。
 分からなくて、初心者で、調べることも勉強すべきことも多い。とはいえ、知らないことを知るというのは世界の広さを再確認するような、不思議な面白さがある。
 興味や好奇心は失わないようにしよう、と同時に戒めている。

人知れず祈り //211216四行小説

 非力だ、と思うことはあまりに多い。何か自分に出来ることは無いだろうかと動いてはみるけれど、思うようにいくことは少ない。
 もどかしくて、不甲斐なくて、もっとうまくやれたらと思うも、人と人との間に起こるのだから自分の思うようにいくことが少ないことは当然のこと。
 ただせめていつか何か思い立ったときにきっかけになればと願いながら、せめて健やかであれと祈っている。