ホールケーキアンサンブル //211224四行小説

 地元で有名な美味しいパン屋がケーキも美味しいことはあまり知られていない。
 明日の朝ごはん用のパンと残っていたらケーキもと思って立ち寄ったパン屋は、思った以上にケーキが残っていた。パン屋に行く人はパンを求め、ケーキを求める人は一筋下に下りたところにあるケーキ屋に行くのが道理だろう。実際、今会計に行った仕立てのいいスーツのおじさまも、ショーケースのケーキには目もくれなかった。あんなに美味しいのにいまだ気付かれていないのは、ラッキーと言えよう。
 パンを適当に取り、選べる贅沢を残しているショーケースの前に立つ。ガトーショコラ、フルーツタルト、栗のタルト、ショートケーキタルト……その中で、一つだけ一際輝く物が残っていた。小ぶりなフルーツタルトのホールケーキだ。柊の飾りも乗っていて可愛らしい。1ピースのケーキを二個買うか、ホールケーキを買ってしまうか……じっくりと考えようとしていたのだが、どうにも目がホールケーキから離れない。しかもあまり値段は高くなく、どちらの選択をしても値段はほとんど同じだった。ならば、と意気揚々と店員さんにケーキを頼んだ。
 そして家に帰り、ホールケーキの前に豚丼、カレーパン、カマンベールチーズ、おつまみいかフライ、ホットミルクというなんとも相性の良くない好きな食べ物をばかりを並べて、クリスマスを楽しむ。

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