触れない月 //211221四行小説

 君は不意に空を向いた。目線の先にあるのは低い位置にある丸い月で、薄く雲がかかっていた。雲は月明かりに照らされて淡く白んでいる。冬の月は冷たくて、触ればサラサラとした感触をしていそうだ。
 おそらく生涯触ることの無いであろうそれに、君は見とれているようだった。真っ直ぐな視線が、月の表面を撫でる。僕にとっての月は君で、触れない僕は君の名を呼ぶ。こちらを向いて視線が交差し、触られたのは僕の心臓の表面だった。

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