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第25回 『キッチン』 吉本ばなな著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、ムーニーさん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 あのね、わたしね、『キッチン』という本を読んだときまだ10代で日本語しらなかった。英語で読んだ。メイドとして働いてたお家の本棚からこっそり借りて読んだの。
 わたしの住んでたアパートは働いてた家のキッチンの半分ぐらいの広さで、弟と妹と身をよせあって眠るときにはすぐそばに小さなコンロと小さな流しがみえた。
 この本は、大切なひとをなくしてしまった女の子が、大切なひとをなくしてしまった親子(ちょっと変人)と暮らすうちにだんだん元気になっていくお話。かなしいけれど、とてもいとおしいこの世界はいったいどこにあるだろう。ほとんど夢の国。ファンタジー。わたしはそのとき日本の場所もしらなかった。でも地球のどこかにそんな国があると思うと、それだけで救われたよ。
 もうずいぶんと昔の話。

 このまえシンジュクの本屋でたまたまこの本をみつけたの。日本語ではじめて読んだ。ひさしぶりに読むとやっぱり泣いた。きもちよく泣いた。わたしの夫、ヒロシさんは読んだことなかったから、読ませた。読んだら泣いた。泣きながら読むヒロシさんをみて、この人とわたし結婚してよかったとわたしはまた思ったよ。
 それでね、わたし気づいたの──

 祖母の死に途方に暮れていた私が、ちょっと奇妙な同居生活を通じて、すこしずつ心を立て直していく、自分再生小説『キッチン』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 この本の舞台は日本だけど日本ではないかもしれない。どこでもない、どこでもある場所。ファンタジーじゃなかった。料理をして、食べるひとがいれば、この世界はある。キッチンがあるところに、この世界はあるのきっと。
 そしてね、わたしも、わたしの夫のヒロシさんも、この世界がみえた。感じることできた。たくさん泣いた。わたしもヒロシさんも大切なひとをなくしてるから。

 最近のマイブームあります。
 それはヒロシさんとカラオケで、菊池桃子ちゃんの、ふたりのナイトダイブを歌うこと。そう。この本のなかで大切なお祖母さんをなくしたみかげと大切なお母さんをなくした雄一が夢のなかでキッチンを掃除しながら一緒に歌う曲。

 月明かりの影 こわさぬように ♫
 岬のはずれにボートをとめた ♫

 ヒロシさんはオンチだけど、この曲はいい曲。ずっと昔にこの本をはじめて読んだときは想像もできなかったメロディ。でもなぜだかなつかしいメロディ。
 この曲を歌いながら、わたしはいつも自分のおなかをなでてます。とっても大きなおなか。だってもうすぐ赤ちゃんが生まれるから。ヒロシさんとわたしの赤ちゃん。元気に生まれてくるように毎日祈ってる。この子が大きくなったら、いつか『キッチン』をプレゼントしようと思う。この子もいつか大切なひとをなくすことになるから。


 ムーニーさん、どうもありがとう!
 吉本ばななさんの『キッチン』は世界中で長く愛されている名作ですよねー。
 ムーニーさんが言うように、この作品の舞台は、どこにもなくて、どこにでもある、読者のすぐそばに存在しているのかもしれませんね。
 大切な誰かを失ったことのあるひとにそっと寄り添ってくれるこの本に、世界中のどれだけのひとが救われたんだろう。一生のうちに大切なひとを失わないひとなんて、きっといませんよね。
 ああ、主人公のみかげさんは今頃どこでどんなキッチンと暮らしているんだろう。みかげさんのいまを綴った『続 キッチン』を読んでみたいなーなんて思っちゃうのはぼくだけ?
 ムーニーさん、どうか元気な赤ちゃん産んでください! お幸せにー。

 それではまた来週。

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