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第49回 『背高泡立草』 古川真人著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、ソリダ子さん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 さいきん本屋さんでブラブラしてたら一冊の本に目がとまりました。

『背高泡立草』

 あの憎っくき雑草。
 自宅の庭に生えてくるんですよ。
 抜いても抜いても、気づけばまた生えている。
 とってもしぶといヤツなんです!

 本を手にとって試しに開いてみると、どうやら長崎の離島にある古い納屋の草刈りをしにいく家族のお話のよう。
 草を刈ってスッキリできるかなー? なんて期待を抱きつつ、わたしはその本を読んでみることにしました。
 すると思いがけず、途方もない世界が広がっていて──

 とある島で草刈りする家族の一日を、島に流れていった時間の痕跡と共に綴った『背高泡立草』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 たった一日のお話なんです。
 奈美って女性が、母親の実家がある長崎の離島で現在はもう使われていない海辺の納屋の草刈りに駆り出されるんです。年1回の恒例行事。彼女は、なぜ草を刈る必要があるのか疑問を抱きながらも、母や叔父、叔母、従姉妹と共に島へと出かけ、納屋の草刈りを済ませて帰ってくる。
 たったそれだけのお話なんだけれど、でも、読後感はまるで長い長い夢を見ていたかのような、不思議な余韻。

 というのも、この作品は、読んでる途中、ところどころに、まったく異なる過去の時代、この島に往来した人々のお話が挟まってるんです。
 戦時中に島から満州に渡った農家。戦後、祖国に戻ろうとして難破した船から島民に救われた朝鮮人。江戸時代に蝦夷に渡って島に戻ったクジラ取りの青年。父親から無理やりカヌーで海を渡る旅に出させられた、ちょっとヤンチャな中学生。
 なるほどー、当たり前なんだけれど、土地には連綿と続く歴史があって、そこに生きたひとりひとりにそれぞれ物語がある。そんなことに気づかされるんです。理屈っていうより、感覚的に、圧倒される感じで。

 草刈りに駆り出された奈美は、なぜ誰も使っていない納屋の草刈りをする必要があるのか理解できなくって、母や叔母、叔父に幾度となしに質問するんです。わたしも初めは解せなくって、なんでだろう? って思ってたのですが、こうした島に残された過去の痕跡に触れるにつれ、なんとなくわかってきたんです。
 理屈じゃないんですよね。強いて理由を挙げるとすれば、これまでずっとそうしてきたから。ただそれだけ。そこには、自分が、あるいは祖先が大切にしてきた家や土地への想いがある。
 だから、草刈りをしに島へと向かう車中も、島で草を刈っている最中も、この家族、みんなどこか楽しげで、のびのび、生き生きしてる。やらされてる感がぜんぜんない。
 奈美も実はそう。どうして?って母や叔父叔母に質問する彼女も、その答えが何であろうと、それが納得できないものであろうと、自分が今年も来年も再来年も草刈りに行くだろうことを知っている。受け容れている。家族行事って、こういうことだよなーってしみじみ思いました。

 印象的なのは、草刈りを終えて、自宅に戻る車中で奈美が母親と会話する場面。
 奈美が納屋で刈った草の種類を母親にたずねるんです。そこで母親の口から次々と、植物の名前がとにかくたくさん挙がってくるんです。ドクダミ、芝、イタドリ、背高泡立草──その中には、土着の植物もあれば、外来種もあって、過去にこの島を往来した様々な人々の物語と相まって、刈ったはずの植物たちがわたしの頭の中の納屋に青々と生い茂っていくようでなんだか胸打たれました。
 「雑草」なんていう草はないんですよね。
 背高泡立草さん、ごめんなさい! って思いました。わたしの自宅の庭に生えてくる背高泡立草をこれからは心して引っこ抜かせてもらいます笑  でも、これまではゴミ袋に入れて捨ててたんですけど、ネットで調べてみたら、どうやら肌にいいハーブらしいんです。これからは入浴剤として活用させてもらおうと思っています!
 とにかく、この本に出会えてよかったー。


 ソリダ子さん、どうもありがとうございます!
 ぼくも読みましたよー。この作品は、合間に挟まれる島にまつわる過去の物語の効果もあり、また、奈美という視点で過去や現在、未来についての感慨を抱かせられることによって、読み終えた時、あれ? たった一日の話だったのかーという不思議な感覚にぼくも包まれました。決して悪くない読感です。
 この作家はこれまでにも、長崎の島に暮らす母方の親族をモデルに、特定の土地をめぐる年代記「サーガ」ともいうべき小説を書かれています。新作はどんなお話になるんでしょう。楽しみです♪
 ソリダ子さん、ぼくの庭にも雑草、じゃなかった、背高泡立草が生えているので、さっそく入浴剤、試してみたいと思います! ありがとう!

 それではまた来週。

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