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第22回 『金閣寺』 三島由紀夫著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、アゲ子さん。

 JUNBUN太郎って、その名前からして超キテレツだけど、もっとキテレツって言ったら、そのお顔。そのヒゲ? が本を開いたみたいになってて、え、大丈夫? キスする時とか邪魔になんないの? てかビール飲んだ日にゃ泡まみれだよね、なんてバブリーなお顔立ち。これ全部ホメ言葉。だってアタシ、速攻でフォローしたもん。てかリスナーになった。一目惚れってやつ。ある種のジャケ買いだね。太郎、あんた、まず人間の形を超越しちゃってるところがイイよ。マジ最高だよ。毎週聴いてる。土曜の夜って仕事なくってマジ暇だから。むっちゃ聴いてる。

 自己紹介するの忘れてた。
 キャバ嬢してます。そう言うとさ、たいていは男でも女でも、老いも若きも、ちょっと安心したような、ちょっと蔑んだような目でアタシのこと見てくるんだよね。お勉強ができなくって、一般企業に就職もできなくって、ブランド物に目がくらんで、あるいは変な男にひっかかり貢がされて、そんで仕方なくやってる、みたいな? で、ちょっと金握らせたらヤラセてくれるんだろうみたいに思われる始末。でもちょっと待って、キャバ嬢って、れっきとした職業ですよ? 税金払ってるよ? 選挙権もってるよ? それにさあ、そもそもキャバ嬢って一括りにすること自体間違っているよね。多様性の時代だよ? ピンからキリまでなんでもござい。他の世界と変わんない。
 まあ、アタシの場合はスカウターにめっちゃ請われてなった口だけど。
「君、かわいいねー」てさ。

 でも、いつからだろう。「かわいいね」って客から言われても、ぜんぜん嬉しくなくなったんだよね。どうでもいいって感じ。ため息ばっかり出る。胸がなんだか苦しい。
「そういう時は、文学が効くよ。試してごらん」
 どっかの会社で社長やってる客に、ある時、そう言われて、なんかよくわからない、でもそうかもしれないっていう予感もあって、仕事上がりにヒルズのツタヤに寄ったの。
 文芸コーナー。
 文学っつったら、ミシマだろ? 読んだことないけど、なんかそういうイメージがアタシの中に勝手に出来上がってて、三島由紀夫の文庫本を探したら、彼すごいいっぱい書いてるんだね、作品がたくさんありすぎて選べないどうしよう!って思ったんだけど、その時、ピンときたの。
『金閣寺』だって。
 中学の修学旅行の時、見物して、てか、させられて、かわいいって思ったの、ふと思い出したんだよね。それで家に帰って、速攻で読んでみたんだけど、さすがアタシ、直感は当たってた。

 とある青年僧が国宝・金閣寺を放火するに至るまでを綴った告白小説『金閣寺』をまだ読んでいないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください!

 生まれつきのドモり、ブサイクな顔、好きになった美女に相手にされず、父の死も悲しくない。母も疎ましい。誰からも理解されないことを誇りとし、美しい友人に憧れ、同類の友人にほっとさせられ、自分の痛いところをグリグリえぐられて、鼓舞されて、焚きつけられて、そうこうしているうちに金閣寺に取り憑かれ、金閣寺を崇拝し、いつしか支配しようとし、やがて、焼き払うことを決心する──。この主人公の男子に、読み始めからアタシ、スッと入っていけた。これがコスプレってやつ? ちょっとした快感。なるほど、この彼はさ、自分のブサイクさ、いや、正確には、自分をブサイクだって思う劣等感を、劣等感と認めることができなかったんだろうね。で、金閣寺を美の絶対的象徴にまつりたてて、繋がろうとし、でも繋がれずに、女を抱こうとするたび邪魔される始末。はっきり言って自業自得だけど。
 でもね、アタシ、これ読んでいるうちに気づいたの。アタシも美に取り憑かれてるってことに。でもアタシの場合は彼とはちょっと違う。彼のように自分の外に美を求め、それと繋がったり、それに包まれようとしたのではなく、アタシ自体に美を求めちゃったんだよね。つまり、アタシ自身が金閣寺だった。

 実はアタシ、目がちょっと腫れぼったい奥二重だったのね。それで、歌舞伎町のクリニックでクッキリ二重にしてもらったの。そう、プチなんとかってやつ。そしたら、帰り道、速攻でスカウトされた。
「君、かわいいねー」って。
 え、なにこれ、世界変わった?
 それからはさ、フロアの同僚を下から自分と比べていって、「アタシの方がかわいい」を実現するために何でもやった。ボトックスでしょ、ヒアルロン酸注入に、ピーリング、ほくろ除去、目頭切開、皮膚漂白、歯列矯正──。
 トップになった頃には、顔面麻痺してて、感覚はほぼゼロ。これでようやく一息つけると思ったら、大間違いだった。トップをキープするために、「アタシをアタシよりもかわいくする」っていう、競争のスタート。魔の無限ループ。稼いだ金ほぼぜんぶ突っ込んで、もう、トップキープするために手術してるのか、手術するためにトップキープしてるのかわかんなかった。もうどうでもよかった。なるほどね、だから客から「かわいいね」って言われてもうれしくない。ため息ばっかり出る。胸が苦しいわけだ。アタシ、けっこうギリギリまで来てたんだってことに読んでる途中で気づいた。
 だから、それからはアタシ、主人公の彼と全力で同期して、金閣寺を燃やすことだけに心血を注いだ。で、最終の第10章、ついに金閣寺に彼が火を放った時、アタシ、スカッとしたの。ありがとう。アタシっていう金閣寺を燃やしてくれてサンキュー!って思った。そして生きようって思った。
 生きるに際して、アタシ、キャバ嬢を辞めて、自分で商売始めることにしました。真っ暗闇の中でお酒と語らいを楽しむっていう、暗闇バー。お店の名前は、もちろん『金閣寺』イエーイ! オープンしたら太郎も来てね♡チュッ。
 以上、お店の宣伝でした笑

 アゲ子さん、どうもありがとう!!
 文学の一冊目に『金閣寺』を直感で選んでしまうアゲ子さんの嗅覚、さすがです!!
 ぼくの顔きっかけでリスナーになってくれたのは、おそらくアゲ子さんが最初で最後ではないでしょうか?笑 ありがたい! でもぼくはこの顔、けっこう気に入ってます。あなたの顔を見ていると、なんだか無性に本が読みたくなるってよく言われるから!!
 もちろん、アゲ子さんのバー『金閣寺』にも遊びに行きます! そこで本の朗読会をやったら盛り上がるかもしれませんね。朗読する作品は、もちろん『金閣寺』!笑
 アゲ子さんといつか太陽の下でお目にかかれる日が来ますように。

 また来週! 

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