松下幸之助と『経営の技法』#112

6/6 規則と自由

~必要以上の規則で律してしまっては、各自が持ち味をのびのびと発揮できない。~

 もし経営者が必要以上に社内規則をつくって社員の活動を律しようとしたならば、たとえそれが社員が間違いをしないようにとの心づかいからであっても、やはり社員の多くはそういう規則にしばられて、のびのびとは活動しにくいであろう。それでは各人のせっかくもっている知恵才覚というものも生かされにくくなる。いきおい、仕事の成果もあがらないということにもなりかねない。だから、会社の経営者というものは、やはり、会社としての経営の基本的な方針は全員に徹底させるが、あとはできるだけ各人の責任において自由にやってもらう、というやり方をとったほうがよいのではないだろうか。
 そうすれば、社員はのびのびと自分の持ち味を発揮できるし、仕事に対しても喜びを感じつつ、またそれぞれ創意工夫を生み出しつつ、高い能率を上げて働くということにもなろう。それは本人のためにもなり、ひいては会社の繁栄にも結びつくであろう。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 会社を人体に例えた場合、現場の従業員各自が意識を持って仕事に取り組むことの重要性が、特にリスクコントロールの観点から見ると、容易に理解できます。
 例えば、外からの危険に対し、体中に張り巡らされた神経が、それ自体は単純な情報(痛い、熱いなど)を感じ取る役割りを追っています。この機能が働かなければ、例えば軽いやけどで済むところが大やけどになるなど、危険が大きくなります。
 同様に、例えば調達する原材料の品質などは、実際にそれを担当する現場でなければ変化に気づきませんので、調達担当者は、難しいことは無用ですが、原材料の品質の変化には敏感であり、それを適切に報告してもらう必要があります。
 同様のことは、リスクコントロールだけでなく、お金を稼ぐ場面でも重要です。現場だからこそ気づくヒントやアイディアを組み上げた方が、経営者だけで考える頭でっかちな戦略よりも、選択の幅が広く、実現可能性も高くなる可能性があるからです。
 他方、規律も大事です。特に、上司の指示を部下が全く守らない状態になれば、組織である意味が無くなってしまいます。そこまで極端な場合でなくても、会社の規律が守られない状況では、バラバラな活動しかできず、組織的な大きな力が必要な場面で、競争相手に勝てなくなってしまいます。
 組織の一体性と従業員の主体性や活力、ボトムアップとトップダウンなど、組織を束ねつつ活力を引き出し、組織を運営することは、これら相反する要請のバランスの上に成り立つものなのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 このように見ると、投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として求められるものの1つが、この相反する要請を上手に満たしていくバランス感覚とリーダーシップであることが理解できます。
 しかも、一度制度設計してしまえばそれで終わりではありません。規律がきつすぎて、活気がなくなってきたと思えば、現場を元気づける方策が必要ですし、逆に規律が乱れてきて、会社の一体感が損なわれてきたと思えば、規律を引き締めなければなりません。しかも、元気づける方策と引き締める方策は、それぞれ一つではなく、経営政策にこれといった正解はないのです。
 つまり、こうあるべきであるという理想を抱きつつ、現状を見極めて適切に対応していく、という運用上の問題もあるのです。

3.おわりに
 全く現場の主体性を要求しない、という組織もあり得ます。それは、ワンマン経営者に見られるビジネスモデルで、従業員は全て経営者の指示にだけ従えばよい、という場合です。
 このモデルの長所は、組織の一体的な活動が維持されやすい点にありますが、短所は、経営者の注意が届く範囲を超えた大きさにできない点にあります。逆に言うと、現場にある程度権限を与えることから、経営者の目の届かないところでも活動が可能になるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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