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松下幸之助と『経営の技法』#55

4/10の金言
 人生も経営も、けじめのゆるみから崩れる。普段から躾を身につけておきたい。

4/10の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 別にかたちにとらわれる必要はないが、たとえば朝起きたら、一家そろって仏壇に手を合わせるような態度から、一日のけじめが生まれてくる。何ごとをするにも、けじめがいちばん大切で、けじめのない、だらしない暮らしだと、働けず、良い知恵も生まれず、ものも失う。
 商売も、経営も同じこと。けじめをつけない経営は、いつかどこかで破綻する。景気のよい時はまだよいが、不景気になればたちまち崩れる。蟻の一穴のように、大きな商売も、ちょっとしたけじめのゆるみから崩れる。だから常日頃から、小さいことにもけじめをつけて、きちんとした心がけを持ちたいもの。
 自分のためにも、世の中に迷惑をかけないためにも、平生から、しっかりした躾を身につけておかなければならない。お互いに、躾を身につけて、けじめのある暮らしを営みたい。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 けじめを、例えば就業時間の問題と位置付ければ、フレックスタイム制や在宅勤務制は、松下幸之助氏の好みに合わないことになりかねません。
 しかし、「けじめのゆるみから崩れる」という表現が注目されます。
 すなわち、現代風の表現にすると、リスクが現実化する、という意味になりますので、けじめはリスクの現実化を防止すべきものになります。
 例えば、メーカーにとっての品質偽装のリスクと考えれば、品質偽装を防ぐ手立てとして設けられている品質検査プロセスに関し「けじめのゆるみ」を戒めている、と考えられるのです。
 そして、「けじめ」は人間に対して求められるものですから、品質検査の中でも、機械的に処理される工程ではなく、人間によって行われる工程、すなわち検査頻度、検査対象の選定、検査に関する条件の設定、検査結果の分析やその評価、など、機械自体にミスがなくてもそれを操作する人間のミス、すなわち人為的なミスを減らすことが、「けじめ」をつけることの意味になるのです。
 そうすると、人為的なミスを減らす方法としてもいろいろな方法が考えられますが、節目を設け、気持ちを新たにする「ルーチン」が意味することは、気持ちの緊張を緩めず、引き締めることになります。
 このように、松下幸之助氏の「けじめ」を現代風に解釈すると、緊張感を維持する「ルーチン」のようなことで、例えば検査の精度がゆるまないようにすることを意味します。
 具体的に、最近の品質偽装で問題になっている事例として、せっかく検査技師などの資格を設けているのに、無資格者に検査をさせているような場合があります。どうせ技術的には変わらないんだから同じだろう、という意見も聞かれますが、やはり、試験の受験、資格更新のための規制その他、それ自体にはあまり意味がないように見えることでも、検査に関わる担当者の気持ちを引き締める効果が認められるのであれば、それを大事にすべきなのです。
 同様のことは、鉄道の運転手や工場の運転技師の指差し確認にも当てはまるでしょう、チェック対象を指差し、指とその対象を自分の目で確認し、声を出し、その声を自分で聞く、という細かい刺激の積み重ねが、確認者の緊張感を高め、検査の精度を高めている、と評価できるのです。
 「けじめ」の、人間の精神状態に与える影響を大切にしよう、というメッセージのように思われるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係として見た場合、よく見かける「雑な」費用対効果を論じるような経営者ではなく、ここで見たように、例えば検査担当者の精神的な緊張を維持することの重要性まで配慮できるような、注意深くて想像力の高い経営者を選ぶべきである、と言えるでしょう。
 さらに言えば、経営者自身にもそのような緊張感を持ってもらうために、株主総会や株主の代理人であるはずの社外取締役を通して、経営者にいい意味での緊張感を与え続けるべき、でもあるのです。

3.おわりに
 このようにしてみれば、古臭い「けじめ」という言葉にも、現代風な重要性が見いだされます。働く人の精神状態、すなわちここで特に注目したのは緊張感ですが、それ以外にも自発的・意欲的に働きたいというモチベーションなど、さまざまな気持ちの状態まで考えることの重要性、と考えれば、単に「経済的」合理性だけでなく、「経営的」配慮の重要性も理解できるのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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