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昭和四十九年三月
鏡町ヨリ五百キロ離レタ
獣町ニテ事件ハ再ビ起コル


ー過去の私がボソッと呟く。
「また 誰も遊んでくれなかった…」と。


ー帰宅した私に気付き、声をかける。
「あら、お帰り。なに突っ立てんだい。
早くこっちにおいで。
お腹空いたろう。今すぐご飯にするからね」


ー包丁が俎板に視線を向ける。
「母さん、母さんあのね。
どうして僕には友達が一人も出来ないの…」


ー俎板の上で落胆した蓮根の穴から漏れる声。
「え?お前そんな事で悩んでいるのかい。
いいんだよ、無理に友達なんて作らなくても。
その為にお前には少年倶楽部もとってあげているじゃないか。
本を読んでいればいいんだよ」


ー包丁に錆びが生じる。
「そんな事って…。母さん…
僕には友達が一人も居ないんだよ。
何故だか解る?解るよね…」


ー鍋の湯が暗々煮立つ。
「何言ってんだいお前、あのね…」


ー包丁の刃が欠ける。
「この顔だよ母さん…この顔!
なんでこんな顔の僕を生んだのさ。
母さんは美人なのに!」


ー食卓に置いてあった柘榴が転がり落ちる。
「 いい加減にしなさい!何言ってるの!
お腹を痛めて生んだんだよ。顔が何なの?」


ー私は包丁を手に取った私を止める事が出来ず柘榴を踏みつけた…
「うるさい…」


「え?」


「うるさーーーーーい!!」

地獄抄

悲しい眼のお母さん 迷子の僕を助けてよ
悲しい眼のお母さん 迷子の僕を助けてよ

産まれてきた事自体 親不孝
産まれてきた事自体 親不孝

時計地獄の語らべ 真っ黒髪の母さん
こんな醜い僕を 何で宿してしまったの?
たった一人の母さんを 鏡の中に映しこみ
時計だらけの四畳半 白い首筋に手がのびる

産まれてきた事自体 親不孝
産まれてきた事自体 親不孝

産まれてきたのが親不孝 何も見えないよ
産まれてきたのが親不孝 生きる喜びを

誰が頼んで産まれてきたのか
黒い日曜 空には太陽 
殺したいよう 俺、死にたいよう 
闇=病みを抱えて
親に感謝それホントの気持ち? 
本心?邪心?死んじまえマザーファッカー
まさか真っ逆さま転落人生 
Noで応える 俺の生き様
胎児 胎児よ何故踊る 
ダンス 逆子上等 
ちゃかぽこちゃかぽこちゃかぽこちゃかぽこ
ちゃかぽこちゃかぽこちゃかぽこちゃかぽこ
おどれー!

胎児よ胎児よ何故踊る?
胎児よ胎児よ何故踊る?

般若波羅蜜多 般若波羅蜜多 般若波羅蜜多 般若波羅蜜多
般若波羅蜜多 般若波羅蜜多 般若波羅蜜多 般若波羅蜜多

産まれてきた事自体 親不孝
産まれてきた事自体 親不孝

私と私との跋文

ー母を殺した僕はそれから少年刑務所に入った。

15年の長い刑期を終えた僕は、
獣町より500キロ離れた鏡町の寂れた町工場で働く事になった。
初月給は母の大好きだった彼岸花と母の白髪が纏わりついた柘植の櫛を墓前に持って行き、夏の終に見た夢を、自分が犯した白昼夢に重ね、逢魔が時、忘却のサーカス一座で鏡合わせ。僕は大人になった僕と出会った。

ー少年時代の私が語り掛ける。
「 やあ、大人の僕よ」

「やあ、また会ったね。
どうだい鏡の中は?」

「居心地はいいかな。母さんは案の定口うるさいけれどね」
少年時代の私が鏡の中から手を振りながら去ってゆく。

「夢を弄った結果だよ。
僕は今もこうやって鏡の外でもがいている。
あ、もう行ってしまうのかい?」

私は鏡の中の私に手を振り
そうして又無表情の闇が来るんだ!

2003年 鏡町にて/ストロベリーソングオーケストラ
2017年 怪帰怨源蒐/ストロベリーソングオーケストラ
各音源サブスクリプションにてダウンロード販売中
作詩・作曲/宮悪 戦車 2017年Ver編曲/キリヒラ ランセ

お憑かれ様デス!やってて良かったnote! アナタのお気持ち(サポート)宜しくお願いします! いただいたお気持ちは今後の執筆活動・創作活動にドバっと注いで逝きます!!褒めたら伸びる子なんデス(当社比)