『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』

☆拝金主義の権化、タイタニック号
「鋼鉄の船です!超デカいです!絶対沈みません!」が売りのタイタニック号ですが、沈みます。見栄っぱりな人間ばかりが集う一等客室。男はビジネスや政治の話をしながらタバコを吸い、女は着飾りゴシップで紅茶を飲む。主人公ローズは、そういった上流階級のええ格好しいな空気感に辟易している。その後の物語で明示されることだが、父が既に他界していて家計が苦しいことが背景にあるため、ローズは嫌々ながらも玉の輿を狙っている。つまり彼女は自分の人生を選べない、タイタニック号は処女航海だというのに。母親にコルセットをキツく縛り上げられているシーンが象徴的だ。ある意味ではあの母親もまた可哀想な人物であり、拝金主義の呪縛にとらわれている一人だ。極めつけは婚約者のキャル。女は男を引き立てるためのお飾りと言わんばかりの言動でローズを抑圧する。彼がクソ野郎なのは言うまでもないが、劇中で何度か改心できそうなポイントはあった。避難ボートでのシーンが主にそうだ。結局最後までクソ野郎のままだったキャルではあるが、金で避難ボートの席を買収しようとし、断られたところから執着の対象がローズに向く。彼が典型的な「金以外何も持っていない金持ち」だからだ。

☆中身のない拝金主義VS本質的な愛
命の恩人的な存在でもあり、新たな価値観を与えてくれるジャックに、ローズが心惹かれていくのは当然で、駆け落ちすると言うほどまでにアツアツになる。生きる意味を見つけ、自らの意思で人生の舵を取るようになる。タイタニック号の船首であの超有名なシーンも、拝金主義の化身とも言えるタイタニック号を尻目に「空を飛ぶ」のだ。ローズが死のうとしていた船尾で二人が出会い、船首に向かって愛が育まれていく。
ローズは拝金主義の呪いから逃れ、ジャックとの新しい人生を夢見る。そのプロットポイント(起承転結で言うところの転)で、拝金主義を体現するタイタニック号は氷山にぶつかり沈没へのカウントダウンを始める。ローズとジャックの愛が、上辺だけの拝金主義に勝ち、否定したからだ。存在意義をなくした船と同様に、ここからキャルの存在意義も問われていく。
金は生きていくために必要な物であり、そのため人々が金について考える時間が多いのも必然だ。けれど、生きる意味とは対極にある。手段と目的論だ。金が多くあればその分だけ選択肢も増えるが、目的がなければ幾ら持っていようと意味がない。キャルという人物はそれを体現している。そこでタイタニック号の沈没、すなわち生死(物質的にもアイデンティティとしても)という最も大きなリアリティが襲ってくる。ジャックを殺し、ローズを取り返し、生き残る(場合によっては二人とも殺して)ことで自我と生命を保とうとした。印象的なのは、生き延びた先の救助船でローズを探す半ば放心状態のキャルだ。のちのローズのナレーションで彼がその後再婚して自殺したことがわかる。己を形成する全てを失い、金だけが残った彼はもう生きていられなかったのだ。
語りの構造として、この一連の物語を現代(1996年)の若者たちにローズが語り聞かせていることがポイントだ。そもそもサルベージをしていた彼らも「カネカネカネ!」の考えで行動していた。言ってしまえば年寄りの教訓的な物語だ。なのに説教臭さがないのは、やはりラブロマンスがそこにあったからだろう。ローズはジャックのことを片時だって忘れたことはない。彼が死んでもなお、彼がくれた人生を生き続ける。生存者名簿確認の際にドーソン姓を名乗るローズ。約束した乗馬だって体験し、新たな伴侶と子どもをもうけ、幸せに生きてきた彼女の旅路がラストの写真からもわかる。まさにMy heart will go onだ(号泣)。Ifの回想で、三等階級の身なりをして階段で待つジャックに、皆の祝福を受けながらキスをするローズ、二人の姿はどんな宝石よりも価値がある。

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