TATSUYA DISCAS

観た映画について書き留めていけたらと思います。

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  • ごきげん映画備忘録

    観た映画についてあれやこれや。

最近の記事

『ボーンズ・アンド・オール』

現代の人々が抱える疎外感、関係性への渇望、抑圧される葛藤を、象徴的にカリバリズムとして表現している。KISSのレコードをかけて上機嫌に歌うリーは、鏡に映った自分を見て我に返る。1983年にリリースされたKISSの『地獄の回想』は、バンドメンバーがメイクを落として活動を始めた際のアルバムだという。爆弾のような喰人衝動を抱えて生きていること、そしてそれから逃れられないことを血のついた自身の素の顔を見てリーは青ざめる。ちなみに、彼のファッションはおそらく盗品がほとんどであり、髪を赤

    • 『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』

      ☆拝金主義の権化、タイタニック号 「鋼鉄の船です!超デカいです!絶対沈みません!」が売りのタイタニック号ですが、沈みます。見栄っぱりな人間ばかりが集う一等客室。男はビジネスや政治の話をしながらタバコを吸い、女は着飾りゴシップで紅茶を飲む。主人公ローズは、そういった上流階級のええ格好しいな空気感に辟易している。その後の物語で明示されることだが、父が既に他界していて家計が苦しいことが背景にあるため、ローズは嫌々ながらも玉の輿を狙っている。つまり彼女は自分の人生を選べない、タイタニ

      • 『逆転のトライアングル』

        ☆外見的美しさという通貨 モデルとして落ち目になっている男性カールと、インフルエンサーとしても人気のある女性ヤヤ。互いの社会的利益のためにビジネスカップルを演じている。その状況(本質的な愛がない・通念的ジェンダー観)に異議を唱えるカールと、対称的に自身のルックスによる利益を欲しいまま享受しているヤヤ。若く美しく、眉間に皺(Triangle of Sadness)なんて寄っていない。水着で酒飲んでりゃ「ロレックス買ってあげるよ」とおっさんに言ってもらえるし、そもそも豪華客船

        • 『西部戦線異状なし』

          ☆「銃はいいです。剣やナイフと違って人の死に行く感触が手に残りませんから」 某人気錬金術漫画のセリフです。劇中でパウルが確かな手触りをもって人を殺すのは一度だけです。銃で殺せば気が楽なんてことは全くないでしょうし、私には戦争も殺人の感覚もわからないので憶測に過ぎませんが、一対一で敵と対峙して命のやり取りをするということ。それは戦争において誰もが必ず直面する場面ではないが、誰にでも訪れ得るとも言えるかもしれません。パウルは敵兵の心臓をナイフで何度も突き、その後で助けようとす

        『ボーンズ・アンド・オール』

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        • ごきげん映画備忘録
          10本

        記事

          『天気の子』

          ※2022年10月に書いた駄文です 新海誠監督最新作の公開を前にリバイバル上映している『天気の子』を観に立川へ。『秒速5センチメートル』と『君の名は。』は観たことがあったが、今作は初鑑賞。どうせきっと絵がめちゃくちゃ綺麗なんだろうな……と思いながら、久しぶりのアニメ映画に半スキップ状態で映画館へ。 と、映画を観終わり電車の中でこの駄文を書きしたためているところなのだが、やはり最初の感想は「わぁ!しゅごい!絵がきれい!」で、もうとにかく絵がきれいだったんですが、僕以

          『天気の子』

          『イニシェリン島の精霊』

          ☆アイルランド内戦 〜イニシェリン島の戦い(超小規模)〜 アイルランド本土で内戦が勃発しているという背景がありながら、イニシェリン島は退屈なほどのんびりとした時間が流れている。パードリックとコルムの敵対関係が、本土の内乱と対比構造になっているのはパンフレットや映画誌でも示されているので間違いないが、私の個人的な感覚で言うと「戦争になりうる一番最初の火種ってこういう諍いなのかな」ということです。本土では内乱という凄惨な争いが起きている。一方、個人間の争いで、規模も小さく(指

          『イニシェリン島の精霊』

          『ブラック・ウィドウ』

          言ったって"エンタメ作品"じゃないですか。僕は今年に入ってスパイダーマンを観るためにMCU作品を一から鑑賞したクソにわかアベンジャーズ見習い、つまりアベンジャーズで言うところのファルコンぐらいのファンなんですけど、エンドゲームでは半ベソかいてたし、ノーウェイホームでも少し泣いたわけで、まぁでも感想とか、んな野暮なこと書かなくてもいいじゃねぇかと思いつつ、今作を観て結局また泣いちゃったので筆を取るに至った次第です。 MCU素人だった僕ですが、実はこの『ブラック・ウィド

          『ブラック・ウィドウ』

          『ベルファスト』

          「街を出たとしてもベルファストは失くならない」「(未来へ)行きなさい、(過去を)振り返らず」『ノマドランド』(=No Mad Land)で綴られた"心の平穏とその所在"と同義。他者(この作品では故郷)に安心を求めるのではなく自分自身の中に見つけることが大事。 "悲劇の中の愛"については『ジョジョ・ラビット』と似た雰囲気があるが、ジョジョの盲目的なマインドセットとは乖離しているように思える(あちらは少年が先の見えない戦禍で自分の生き方の舵を取る成長のお話)。ある意味でジョジ

          『ベルファスト』

          『ナイトメア・アリー』

          ☆スタン煙草吸いすぎじゃない? 作中で喋ってる時間よりも喫煙してる時間の方が長いんじゃないかという主人公スタン。彼は幼い頃に母と疎遠になり、酒浸りの暴力父と二人で暮らしていたようです。スタンが煙草を吸いまくるのは母性に飢えてるからです(つまり乳首です)。 ピアノ弾きの男に妻をNTRされた弱い父。自分よりもさらに弱い息子のスタンにしか強さを示せない、しかも暴力で。そんな父を憎み、殺し、力関係をはっきりさせたその証として、スタンは父親の腕時計を身につけるのです。それでも煙

          『ナイトメア・アリー』

          『シカゴ7裁判』

          ◆シカゴ7は何と闘っているのか この物語の登場人物たちは、伝統にすがる権威主義(父)と自由に手を伸ばす革新派(子)のどちらかに分類することができる。前者は、ホフマン判事・ ミッチェル長官など司法や警察などの機関に属する公人だ。後者は、トムやアビー達のような反体制の活動家、また、ボビーも含めれば社会的弱者である。政治裁判とアビーが揶揄するように、法廷において被告側の発言は潰され、彼らに不利なように事が進んでいく。現司法長官のミッチェルが「古きよき慣習を取り戻す」と言うように

          『シカゴ7裁判』

          『PERFECT BLUE』

          ◆オタクのカメラが写す偶像 アイドルとは、いつも笑顔で歌って踊り、ファンを喜ばせるものだ、というのが世間一般の認識だろう。主人公の未麻も、その認識の通りにアイドル活動をしていたが、事務所の意向により女優に転向することになる。グループの仲間の「未麻ねえ」という呼び方からわかるように、メンバーの中で年長であろう未麻の将来的な成功を考えた事務所側の判断だったのだろう。アイドルを辞め、女優の仕事を始めた未麻だったが、思うように上手くはいかなかった。その一方で、未麻が脱けたグループ

          『PERFECT BLUE』

          『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

          【失われた関係性と、新たな"擬似家族"】 ザック、タイラー、エレノア、この三人の共通点は家族を失くしていること。ザックは家族に捨てられ、タイラーは自身の過失で兄を亡くし、エレノアは夫に先立たれている。ザックとタイラーは、それぞれが元いた環境から逃げ出し、お尋ね者コンビとして旅を始め、絆を深めていく。タイラーは、ザックとの旅の中で、兄と過ごした日々を思い出す。兄の死後、仕事も上手くいかず罪を犯して逃亡する旅路の中で、ザックとの間に生まれた友情、擬似家族関係が、タイラーの心

          『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

          『劇場』

          【夢追い人のコンプレックスと、一人芝居】 永田という男はろくにコミュニケーションも取れず、見た目で言えば、髪はボサボサで常に猫背、不安定を体現化したような存在だ。幸か不幸かそんな彼と恋仲になるのが、人望厚く、おおらかで人当たりの良い沙希だった。物語冒頭で精神的に酷く沈んでいた永田は、沙希のことを「女神」と称するほど、彼女の存在に救いを感じ、それでいて疎ましくも思っていた。それは、光が輝けば輝くほど、影を濃くする。社交的で、誰にでも好かれそうな沙希が、恋人として自分に優し

          『サウンド・オブ・メタル』

          【安心の所在、自他との対話】 トレーラーを住居とし、ツアーのため各地を回りながら活動するルーベンとルイーズ、二人は恋人同士だった。まず、トレーラー暮らしについて。日本の現代社会で生きる私からすれば、夢のある話にも思えるが、映画的なことを言えば経済的な余裕のなさ、もっと言ってしまえば将来性が低いことを表す。車は本来移動するためのものである。『リアルスティール』の冒頭もそうだが、車に住まい、各地を転々とし、"住居の場所が安定しない"というのは、経済的な困窮と、のちに触れる精

          『サウンド・オブ・メタル』

          『あの夜、マイアミで』

          【4人の黒人、考え方の相違と共通点は】 この作品は4人の黒人の会話劇が物語の大半を占める。白人に好かれない売れっ子シンガー、リビングに入ることを拒まれる一流フットボール選手、タイトルを獲得したばかりのヘビィ級ボクサー、そして黒人の自由について訴え続ける活動家の4人だ。ヘビィ級王者になったカシアスを祝うため、彼らはモーテルに集まった。初めに言及しておくと、彼らの共通点は勿論、全員が黒人ということだ。細かい点については後ほど触れるが、ここで考えるべきは黒人であること=共通の

          『あの夜、マイアミで』