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ブログとエッセイのような

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三題噺と小説以外はこちらです。ながさもばらばら。
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2021年2月の記事一覧

才能と創

「ものを作り出すことが才能であるとしたら、ぼくはとうにその資格を喪っていると思う」のだと、手遊びに角砂糖を転がしながら彼は言った。闇いろのコーヒーが甘く濁りながら温度を無くしていく。声色は、酷く退屈そうだった。乱雑に伸ばした前髪が遮って、表情ばかり伺えなかった。何も言えないのをいいことに、こう続く。「違うね、最初から、持ち合わせてすらいなかったんだよ。」何も言えないのは無責任だと思った。それでも、

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劣等

劣等

手首に線を引かないようにピアスを開けていた。ピアスを外さなければならなくなって、代わりに手首を切った。人を殴らないように、悪いのは自分だと戒めるために、罰するために、本当に死んでしまう決心は、到底持てなかったので手首を切った。やがて、手首を切らないように絵を刻んだ。青の花。誰かの言葉。惑星ではなくなった星。それでもどうしても、何にもなれなかった。わたしは誰にも、何にもなれなかった。生きにくい身体が

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ゆき

ゆき

恋愛をしたいとか、恋人が欲しいとか、そういうことを考えることが殆どと言っていいほど無くなった。わたしには欠如しているものと捉えて初めて、替りに寂しさと、虚しさと、無力感と、それから罪悪感が残った。痼のように、石のように、少しずつ少しずつ積もって燻って侵食する。負け惜しみとか、負け犬の遠吠えとか、そんなこと思ってればいいんだ、こんなわたしに人間として価値があるのだろうか。酷く欠陥があるように思える。

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