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敢えて「悲劇的な展開」を予感させることで、その後の感動を大きくするテクニック!!|『妹さえいればいい。』に学ぶテクニック

名作アニメを研究して、創作に活かそう!

本記事では、「妹さえいればいい。」に【鑑賞者により強く感動してもらうためのテクニック】を学びます。

※「妹さえいればいい。」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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魅力は「キャラの誠実さ」!!


「妹さえいればいい。」の魅力は何か?

私が思うに、ズバリ「キャラ」でしょう。もちろん他にもいろいろと取り上げたいことはありますが……最大の魅力は「キャラの誠実さ」!


以下、詳しくご説明します。


<主要キャラ4人>

・羽島伊月:主人公。男性、20歳。ラノベ作家。

・可児那由多:ヒロイン。女性、18歳。ラノベ作家。

・不破春斗:主人公らの作家仲間。男性、22歳。ラノベ作家。

・白川京:主人公らの友人。女性、20歳。大学生。

4人は仲よし。伊月の部屋(彼は1人暮らしをしている)に集まって食事をしたり、ゲームで遊んだり、時には遠出したりしている。


4人とも悩みやトラウマを抱えている


本作の主要キャラは、4人とも悩みやトラウマを抱えています。


まずは主人公の羽島伊月

彼は「妹/妹もの作品」を愛するラノベ作家です。しかし残念なことに、彼には妹がいません(弟が1人いるだけ)。

また作家としては、強烈な「妹へのこだわり」を武器にそこそこ人気を誇っているようです。とはいえ、このあとご紹介する他のキャラと比べると、成功しているとは言いがたい。彼は悔しい思いをしています。


次は、ヒロインの可児那由多

彼女は大人気ラノベ作家です。また主人公ら素敵な仲間に囲まれ、素晴らしい毎日を送っている。つまり、公私共に大変充実しているのです……現在は。

じつは彼女は中学時代に酷いいじめに遭い、引きこもり生活を送っていました。そしていまも、トラウマを抱えているように見える。


続いて、主人公の作家仲間・不破春斗

彼は、人気ラノベ作家です(人気順は、那由多>春斗>伊月)。真面目で人当たりもよく、おそらく人間関係は上手くいっている。

しかし彼には、大きな悩みがあります。作品に個性がないのです。彼は、伊月や那由多のような「本物の才能 = 強烈な個性」を羨ましく思っている。


最後に、主人公らの友人・白川京

彼女は、4人の中で唯一ラノベ作家ではありません。ごく普通の女子大生です。明るく優しく人好き合いがよく、誰にでも好かれるタイプ。

そんな彼女は「自分というものがないこと」、そして「打ち込めるものがないこと」に焦りを感じています。

元々が優柔不断で、他人に流されやすいタイプだった(「優しい」「人付き合いがいい」というのは、「優柔不断」とほとんど同義ですからね)。

その上、現在彼女の周りにいるのはラノベ作家3人。つまり、若くして自分がやりたいことを見極め、自活している連中です。彼女が焦るのも無理ないでしょう。


4人は誠実


さて、ここまで申し上げてきた通り、彼らは現状に満足しておらず、悩み・コンプレックスを抱えているのですが……じつは「彼らがほしがっているもの」は「他の誰かが持っているもの」です。


例えば伊月。彼は「ラノベ作家として成功したい」「妹がほしい」と考えています。そしてそれは、那由多と春斗がすでに手中にしているものです。


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ところで……第2話の終盤に、主人公のこんなモノローグがあります。

誰かが1番ほしいものはいつも他の誰かが持っていて、しかも持っている本人にとっては大して価値がなかったりする。ほしいものと持っているものが一致しているのはすごく奇跡的なことで、悲劇も喜劇も主に奇跡の非在ゆえに起きるのだ。この世界は大体全部、そんな感じにできている。


これ、どう思います?

何やら嫌な予感がしませんか?

私は大変不安になりました。「もしかしてこの先、伊月ら4人は互いに嫉妬し合い、『○○を持っているお前に、オレの気持ちがわかるか!』と怒鳴り合い、そしてバラバラになってしまうのだろうか……?」と感じたのです。


しかしそれは杞憂でした。

例えば伊月は、那由多の作品を読み、あまりの天才ぶりに衝撃を受ける。そして、自分が劣っていることに落ち込む。

しかし、彼は那由多を逆恨みしたり、遠ざけたりはしません。黙って机に向かう。そして、いつか那由多に追いつき、追い越してみせると密かに誓う。

……この「誠実さ」がいいんですよ!見ていて清々しい。


人生は辛いことの連続ですからね。時には自分よりも成功している者を妬み、攻撃的な感情を抱くことだってあるでしょう。

本作の主要キャラ4人だって同様です。

「『自分がほしいもの』を手中にしている者」を羨ましく思うことだってある。翻って自分に絶望することだってある。

しかし彼らは、他の3人を攻撃したりはしません。悔しい時も悲しい時も、グッと堪える。彼らが本心をさらけ出すのは、1人になった時か、酒に酔った時だけです。

この誠実な姿が、じつに魅力的なのです。


敢えて「悲劇的な展開」を予感させることで、その後の感動を大きくするテクニック


本作のキャラがいかに誠実で魅力的か、ご理解いただけたと思います……が、さて。

ここで改めて、先ほどご紹介したモノローグにご注目ください。

誰かが1番ほしいものはいつも他の誰かが持っていて、しかも持っている本人にとっては大して価値がなかったりする。ほしいものと持っているものが一致しているのはすごく奇跡的なことで、悲劇も喜劇も主に奇跡の非在ゆえに起きるのだ。この世界は大体全部、そんな感じにできている。


私は、このモノローグや「『彼らがほしがっているもの』は『他の誰かが持っているもの』である」という設定が、作中で極めて重要な役割を果たしていると思うのです。

というのも、

1:上述の「モノローグ」や「設定」によって、「もしかして主要キャラ4人の関係は、この後崩壊してしまうのでは!?」と不吉な雰囲気が漂い出す。鑑賞者はドキドキする。

2:しかしそれは杞憂。4人は、自分の人生と誠実に向き合い続ける。誰かを呪ったりはしない。

3:当初の反動で、鑑賞者はより一層4人を誠実だと感じ、その姿に感動する。

……というわけです。


重要なのは「反動」。

制作者の方がどこまで意識していたかわかりませんが……つまり、【敢えて一度、鑑賞者に「悲劇的な展開」を予感させることで、その後の感動をより大きくするテクニック】が使われているのです。


このテクニック、みなさんもぜひ使ってみてくださいねー!!


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(担当:三葉)

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