比喩を使って、メインメッセージの「説得力」や「本当っぽさ」を高める ~アニメ「終末トレインどこへいく?」の場合
◆概要
【比喩を使って、メインメッセージの「説得力」や「本当っぽさ」を高める】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:アニメ「終末トレインどこへいく?」(第6話)
▶1
本作の舞台は、ゆえあって人類の文明が崩壊しかけている世界。
主人公たちはそんな世界を旅している。主要キャラの1人・玲実(女子高生)もその一員だ。
いろいろあってある日、
・Step1:玲実たちは、静留(仲間の1人)とはぐれてしまった。
・Step2:皆で静留を探す。だが、見つからない。
しばらくして、
・Step3:玲実たちはネコ兄さん(知り合いの男性、トラックで各地を移動している)とばったり遭遇した。
・Step4:ネコ兄さん曰く、この辺りにはゾンビ(!)が徘徊しており、とても危険とのことだ。
・Step5:3人は動揺する。ゾッ、ゾンビ!?
・Step6:さらに、嫌な予感がした。もしも静留ちゃんがゾンビになっていたらどうしよう……!?
というわけで、
・Step7:玲実は仲間たちに言った「ネコ兄さんについていった方がよくない!?」。
・Step8:その言葉に仲間たちは動揺する。晶が訊いた「静留ちゃんは!?」。
・Step9:玲実が言う「静留ちゃんがゾンビになってたら、ネコ兄さんといる方がいいじゃん!安全じゃん!」。
・Step10:撫子が聞きとがめる「玲実ちゃんは、『静留ちゃんがゾンビになってたらもう一緒にいられない』『友だちじゃない』って言いたいの!?」。
・Step11:玲実が反論する「友だちだけどゾンビだよ!?」。
・Step12:晶が言い返す「ゾンビだけど友だちじゃん!……ゾンビでも友だちだよ、たぶん……」。
すると、
・Step13:玲実が言った「あのさ。ひどい男と付き合ってる女の人が『ギャンブルさえなけりゃ、お酒さえ飲まなけりゃいい人なんです』って言って、それに対して『お酒飲むからそれは悪い人なんです』って皆アドバイスするじゃん?……これってそういうこと?」。
・Step14:撫子は困惑する「ちょっと……」。晶も「違う気がする……」。撫子は続けた「むしろ逆かも!『こんなにだらしないのに好き!』『こんなにわがままだけど許す!』とか」。
・Step15:玲実が尋ねる「『こ~んなにゾンビだけど友だち!』みたいな?」。
・Step16:撫子と晶がうなずく「うん!」。
・Step17:撫子たちとのやりとりを経て、玲実は腹を決めたようだ。3人は静留の捜索を再開した。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step13-16のやりとりである。
このやりとりを経て、玲実たちは「静留はゾンビ化しているかもしれない → 大変危険だ →しかし、仮にゾンビ化していようとも友だちは友だち。私たちは見捨てないと決意する」というところに至るわけだが――冷静に考えてみると、これっておかしくないか!?
そもそも、「ゾンビ化している(かもしれない)静留」を「ギャンブルやお酒で身を持ち崩すクズ男」に喩えるのは適切なのか?
ゾンビってもっと恐ろしいものでは……?
また、「自分たち」を「クズ男を見捨てない女」に喩えるのもすごい。
一般的には「クズ男を見捨てない女 = ダメ女」であり、クズ男とダメ女は共依存を起こしていると考えられる。つまり、ダメ女こそがクズ男の原因とも言えるのだ。それをわかった上でこの比喩を使っているのか……?
とまぁ、玲実たちが使う比喩はツッコミどころ満載である。
しかし多くの鑑賞者は、「なんか喩えが変じゃない?(笑)」「うーむ、比喩が独特だ(笑)」などと笑いつつも、「静留はゾンビ化しているかもしれない → 大変危険だ →しかし、仮にゾンビ化していようとも友だちは友だち。私たちは見捨てないと決意する」という玲実の心境の変化をすっと受け入れたはずだ。
これこそが比喩の力である。
比喩が使われるとなんとなく説得力が生まれ、「まぁ……そうなのかも」という気がしてくるのだ。
以上をまとめると、「キャラの心境が変化する」「キャラが命がけの覚悟を決める」という難しいシーンを描くにあたって比喩を使い、比喩の力で半ば強引に鑑賞者にその変化を受け入れさせたということになる。素晴らしい剛腕だと思う。
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