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エッセイ・コラム

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#水泳

 「やめる」決断をしたとき㊦

「やめる」決断をしたとき㊦

あのときの、急に胸を殴られたかのようなドキッとした感覚はいまでもこびりついている。自分の口からいつの日か伝えるものと思っていた話がコーチから突然口外されたのである。

ミーティングのあと、同じコースで練習していた友人から「なんでやめちゃうんだよ」と聞かれた。「いやあ…」と、うやむやに答えた気がする。
表向きは「受験だから…」とか「全国に出たから…」という理由だったが、実際は「練習はきついし、これ以

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「やめる」決断をしたとき㊤

「やめる」決断をしたとき㊤

人間、生きていれば様々な物事を体験したり経験したりするものだが、いつまでもすべてをやっているわけにもいかないので、そのうち何かをやめる時が来る。

「やめます」というのは勇気がいる。
付き合うときには「好きです付き合ってください」だけでよいのに、別れるときには男がやけに冷たくなったり女が泣いたりして何らかの禍根が残るものだ。何につけても、やっていたことをやめるのは面倒くさい。

それだけに、多くの

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15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【下】

15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【下】

指を攣ったときにはターンで壁を蹴る時に指を伸ばしてなんとかするしかない。懸念材料だったバタフライはとりあえず抑えながらキックも控えめにしのぐ。もともと苦手なバタフライがなおさら遅くなった。

ターンはうまくいき、ひとまず指は治った。一つ安心と思いきや、背泳ぎから平泳ぎのターンで見事に壁に激突。モタモタしてタイムロス。その後は一生懸命泳いだだけで何も覚えていない。
泳ぎ終わった後は吐きそうだったし、

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15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【中】

15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【中】

とはいえ、私がちゃんと泳ぐなんてそれこそ全国大会に出て以来だから15年ぶりだ。
「100mのメドレーリレーなので25m泳げばいいだろ」と思っていたら、どうやら個人種目も出ないといけないらしい。

とりあえず、みんなノリで1分30秒でエントリーして100m個人メドレーに出ることになった。

個人メドレーというか100mなんてこの私に泳げるのだろうかーー出場をノリで決めたあとに猛烈な不安に苛まれたので

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15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【上】

15年ぶりに全国大会のメンバーで水泳のリレーを組んだ話【上】

東京辰巳国際水泳場——それは水泳選手にとっての聖地ともいえる場所である。

ジュニアのころであれば「辰巳で試合に出る」ことは一つのあこがれである。
ちょっとした大会のみならず、全国大会や国際大会も開かれるプールであり、それだけに「あの北島康介もここで泳いだんだぞ」などとコーチなんかに言われながら、憧れを日々募らせて水泳に打ち込むわけである。
私も何度か辰巳の試合に出たけれども、なんとその辰巳が、な

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