【良質なサービスの裏側で】
この記事を読んだ時、旅中のあるエピソードを思い出した。
【日本と海外におけるサービスの違い】
2年前にモロッコを訪れた際、一人の老齢の旅人と出会った。その人は日本人だが、数年前にタイへ移住し、時間を見つけてはこうして一人で世界を旅しているという。
これまで回った国についてお互い話をしていると、いつしか日本と海外におけるサービスの話題になった。
「海外のスーパーだとレジの前で長蛇の列ができていても店員はまったく急ごうとはしないし、なかには憮然とした態度で接客する人もいる。だからといって、それに文句をつける客はそう多くない。日本だとちょっと待たされた時点ですぐさまクレームを入れられるところだよね」
これは、日本人が海外に来た時に感じるギャップの一つだと思う。
他に例を挙げれば、海外のローカルな飲食店ではオーダーが入っても店員間で楽しげに会話をしながら仕事をしており、日本のように時間に追われてせかせかと仕事をしている様子というのはあまり見かけることがない。
南アジアにある某国に行った際の話である。
ローカルな食堂に入ってカリーを注文すると、その店の調理員とウェイターは、客と一緒になってテレビに映るクリケットの試合に熱狂していた。そこに急ぐようなそぶりはまるでない。試合の区切りのいいタイミングになると、彼らは持ち場に戻って再び仕事に取り掛かった。
多くの日本人からすれば『早く仕事しろよ。こっちは客なんだ』というような印象を抱くかもしれない。
その人は続ける。
「日本で悪質なクレーマーが増えてきたのは、良質なサービスを受けられることに慣れて、それがあたかも当たり前のようになってしまったんだろうな。だから店側はクレームを受けないよう過剰なまでにサービスの向上をする。これって悪循環だよね。長時間労働だとか過労死だとかいう問題の一因になってるんじゃないかな。日本の働き方改革ってのも、政策的なものだけじゃ意味がない。多少のサービスの緩さは受け入れられるように自分達の意識を根本的に変えていかないと」
【人は誰しも便利さを希求する。しかし…】
自身も大学在学中には居酒屋や某有名パン業者の工場、児童福祉施設などでアルバイトをし、卒業後には障害者支援施設で勤めてきた。職種は違えど、飲食店も福祉施設も実際に人と関わる対人業務であることから、クレームを出されることはこれまで幾度となくあった。
もちろんそのなかには自分の過失によるものもあったが「こんなことで文句を垂れるのか」というような理不尽な要求を突き付けられたこともある。
日本は良質なサービスが行き届いた社会だ。
しかし、裏返せばサービス業に従事する人への要求水準が非常に高い。「お客様は神様」という言葉が一人歩きし、客の理不尽な要求がまかり通ってしまうこともある。
指定した時間通りに商品が自宅まで配達されること、安価でおいしい食事がいつでも食べられること、常に陳列棚が商品で埋まった状態で24時間営業している店があること。
こうした恩恵を受けられる一方で、その実現のために犠牲になっている人がいることは周知されるべき事実である。
昨今は人口減少に伴う労働力不足が問題として挙げられているが、そうしたなかでコンビニ業界の一部では24時間営業を見直すという向きもある。
企業側がこれを実行するかどうかは別として、この例に限らず多少のサービスの緩さや不便さは受け入れる、そういった寛容さを持ち合わせていかなければならない時代へと移り変わりつつあるのだと思う。
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