書籍解説No.12「ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実」
こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。
※感想文ではありません。
本の要点だと思われる部分を軸に、私がこれまで読んだ文献や論文から得られた知識や、大学時代に専攻していた社会学、趣味でかじっている心理学の知識なども織り交ぜながら要約しています。
よりよいコンテンツになるよう試行錯誤している段階ですが、有益な情報源となるようまとめていきますので、ご覧いただければ幸いです。
それでは、前回の投稿はこちらからお願いします。
第12弾は【ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実(望月優大)】です。
【日本に「移民」はいるのか】
訪日する外国人の数は年々増加しており、2019年6月末時における在留外国人数は2,829,416人(法務省)と、前年末と比較して98,323(3.6%)人の増加、過去最高の数字となりました。
また、日本で働く外国人労働者の総数は1,460,463人(2018,厚生労働省)であり、これは前年の同期比で181,793人、14.2%の増加となりました。
これもまた、2007年に届出が義務化されて以降、過去最高の数字です。
国連は「移民」の定義を、国境を越えて移住してから3か月以上12か月未満の者を「短期(一時的)移民」、そして12か月以上の者を「長期(恒久的)移民」としており、このように呼称するのが一般的であるとされています。
しかし、「移民」には定まった定義がなく、政府や諸機関によってそれは異なります。そのため、どの定義をとるかによって「移民」の数は変わってきますが、いずれの定義に照らし合わせたとしても、日本に「移民」は存在し、その数も年々増加を続けています。
法務省:【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
しかし、政府は「移民」という言葉を避け、外国人労働者を「外国人材」と呼んでおり、「移民」と呼ぶこと自体をタブー視しているようにも見えます。以下の法務省のHPでは、「外国人材」という言葉が羅列されています。
我が国では総人口に占める「日本人」の割合が98.1%と圧倒的に多く、中国人が0.5%、朝鮮人が0.4%と続きます(2016年、CENTRAL INTELLIGENCE AGENCY)。そのため、あらゆる場面において外国人はマイノリティとして存在し、圧倒的多数の日本人の集団のなかで生活することになります。
しかし、日本にも「移民」が存在することは自明の理であり、外国人技能実習制度、留学生30万人計画、入管による長期収容、ヘイトスピーチなど、向き合わなければならない「問題」が山積しています。
これらは同じ「移民をめぐる問題」でもそれぞれ事情が異なり、複雑性をはらんでいます。
政府は外国人技能実習制度、留学生30万人計画、特定技能といった諸政策を「移民政策ではない」と訴えますが、呼称が違うだけでその現実が変わることはありません。先に述べたように、在留外国人の増加は事実なのです。
以下では、「外国人技能実習制度」について取り上げます。
【外国人技能実習制度】
労働力不足に困窮している日本は、今や外国人の労働力抜きには成り立たない経済構造になっており、日本人の生活は外国人に依存している状況です。
それを象徴しているものの一つとして挙げられるのが、私たちが日常的に利用しているコンビニでしょう。
その他にも、居酒屋、牛丼チェーン店、ドラッグストアなど、今でこそ外国人が接客をしている姿を日常的に目にするようになりました。
しかし、私たちが日常生活のなかで目にする外国人の多くは留学生であり、技能実習生ではありません。
それでは、彼らはいったいどこで働いているのか。
技能実習生のほとんどは、一般の日本人の目には触れることのない農場や工場、建設現場などで働いています。
【政府が喧伝する「国際貢献」という建前】
現在、外国人技能実習生として来日している人は約28万人です(OTIT外国人技能実習機構)。
この制度の目的としては、
「海外の若者(大部分はアジア圏)に日本の技術や制度を習得してもらい、それを母国に持ち帰ることで発展に役立ててもらう」
という、本来的には日本が国際貢献・技術移転をするために作られた制度です。
また、技能実習法には「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(第三条第二項)と記されています。
それでは、技能実習の職種・作業の範囲をみてみましょう。
・農業関係(2種類6作業)
・漁業関係(2種類9作業)
・建設関係(22職種33作業)
・食品製造関係(11職種16作業)
・繊維・衣服関係(13職種22作業)
・機械・金属関係(15職種29作業)
・その他(16種類28作業)
(2020年3月時点)
(JITCO 公益財団法人 国際研修協力機構 HPより)
例えば、農業関係であれば耕種農業(施設園芸、畑作・野菜、果樹)と畜産農業(養豚、養鶏、酪農)、漁業関係であれば漁船漁業(かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業)と養殖業(ほたてがい・まがき養殖作業)というように、一つの職種でも作業は枝分かれしており、内容は多岐に渡ります。
項目をご覧になればわかるように、実習生が勤める現場は第一次及び第二次産業であり、これらはいずれも日本社会において労働力不足に困窮している現場です。
つまり、政府は外国人技能実習制度において「国際貢献」を建前として掲げておきながら、日本人労働者を採用しづらい重労働かつ低賃金の現場を外国人労働者で穴埋めしているのが実態としてあり、本来の目的からは逸脱しているといえます。
【国内外から批判を浴びる本制度】
更に、技能実習制度に常につきまとってきた問題として、劣悪な労働環境があげられます。
1993年にこの制度が始まって以降、日本人労働者との待遇格差、違法な長時間労働、報酬からの不当な天引き、パスポートの取り上げによる移動の制限、暴力及びセクシャル・ハラスメントといった、不当労働や人権侵害に当たるケースが散見され、たびたび国内外で話題にされてきました。
アメリカ国務省が毎年発表している、人身取引に関する報告書では日本の技能実習制度がたびたび取り上げられ、改善を求められています。
本書のなかでは、2017年に厚労省が労働基準監督署を通じて全国約6000の事業場を対象に行った監督指導では、その7割以上で労働基準関係法令違反が認められたといいます。
受け入れ企業からすれば、賃金が低く抑えられ、転職ができず、永住権も与えられず、最長5年の在留期間の後には帰国を余儀なくされる実習生は、非常にメリットのある労働力でしょう。
しかし、国際貢献を建前としながら全国の中小企業に低賃金の労働者を供給してきた技能実習制度は、海外からは「現代の奴隷制度」「最悪のインターンシップ」とも揶揄されています。
(この制度を批判的にみる海外メディアは多い)
【失踪】
近年では実習生の数が増加するなかで、上述した過酷な労働環境、来日前に背負う多額の借金、職場での暴力及びセクシャル・ハラスメント、難関な日本語の習得などの要因から、「失踪」する実習生も増えています。
法務省が2018年3月に発表した『技能実習制度の現状(不正行為・失踪)』によれば、2017年に失踪した実習生は7,089人に上り、2013年からの5年間では延べ26,363人もの実習生が失踪しています。
こうした失踪する実習生は年々増加傾向を示しており、2012年には2,005人だったものが、今や3倍以上にも膨れ上がっています。
実習生が、もし運悪く悪質な事業者のもとで働くことになれば、彼らは転職の自由も認められていないことから諦めてそこで働くか、多額の借金を背負った状態で母国に戻るかという選択をしなければなりません。
しかし、その二つの選択肢以外にも抜け道が存在します。
それが「失踪すること」なのです。
失踪後は不法滞在という扱いになるため、もし発覚すれば多額の借金を背負ったまま母国へ強制送還させられます。そのため、入国管理局に捕まる前に犯罪グループに合流したり、失踪後にトラブルや犯罪に巻き込まれたり、最悪死亡するケースもあります。
技能実習の職種の範囲とされているのは、日本人が敬遠する低賃金の肉体労働の現場です。彼らは、日本人の目が届きにくい単純労働の現場で働いていることから、その実態を掴むことは困難です。
しかし、本制度が改善される兆候は未だみられず、実習生の数は年々増加の一途を辿っており、今後も増え続けていくことが予想されます。
【まとめ】
「労働力を呼んだのに、やってきたのは人間だった」
これは、スイスの作家マックス・フリッシュが50年以上前に発した警句です。
実習生は、農場や工場といった日本人が日常的に目にすることのない現場で働いていることから、社会的にも孤立している存在です。また、日本語も不十分な状態で来日する人も少なくありません。
そのため、多くの実習生は技能実習制度に関する制度や法律の知識も理解しているとは言えないでしょう。現制度においては、実習生が日本で有意義な経験を積めるかどうかは運次第という状況です。
本書のタイトルにある建前(国際貢献)と現実(単純労働者の受け入れ)との乖離を解消するために、まずは「国際貢献」という旗印を降ろし、移民の流入をこそこそと隠すように行うのではなく、外国人労働者を構造的に法令違反や人権侵害へと陥らせない受け入れの仕組みを作ったうえで就労目的の在留資格を与えることが必要だと思います。
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