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書籍解説No.21 「新しい家族社会学」

こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。
※感想文ではありません。

前回の投稿はこちらからお願いいたします。

そして、今回は「新しい家族社会学」です。

実はこちら、大学時代のゼミで使用していたテキストです。
ページ数はそれほど多くありませんが「家族」に関する情報が広範にわたって書かれており、かつ誰でも手に取って読めるほど明快にまとめられています。

著者の森岡は「家族」の定義を「少数の近親者を主要な成員とし、成員相互の深い感情的な係わりあいで結ばれた、第1次的な福祉追究の集団」としています。

多くの人たちにとって「家族」は最も身近で基礎的な集団であり、日々の生活の中で衣食住を共にし、心身を癒してくれる友愛に満ちた集団といえるでしょう。
しかし、私たちが経験してきた、あるいは経験している家族は普遍的なものではありません。今の家族の姿は歴史や社会の流れを通じて変化してきたものであり、とりわけ近代社会に成立したものです。そのため、現在の家族の形態や役割、社会における立ち位置は今後も変化し続けていくものだといえます。

以下では、そのような「家族の変遷」を簡略ながらまとめていきます。

【家族の類型(直系家族制/夫婦家族制)】

まず、家族形成のパターンとしては以下の3類型を取り出すことができます。
なお、それぞれの類型をイメージしやすいよう、有名なアニメに登場する家族の例と併せて解説を加えています。手書きで恐縮ですが、家系図も載せています。

【直系家族制 ― 家族の世代的な継承を重視した制度】
例) さくら家 (ちびまる子ちゃん)

この類型の家族では親子の世代間扶養を容易にするうえ、跡取りがいることから親の財産・社会的地位が優先的にその人に配分され、それを世代的に繰り返すことによって家族を繋いでいくことになります。
こうした家族制度は、農業や商業を家族単位で経営(自営業)するような、家族が生活共同体としての性格をもつ社会でしばしば見いだされます。日本において直系家族制は家制度とも呼ばれ、家長(父)の統率のもとで家産に基づいた家業が営まれます。家制度の詳細については後述します。

【夫婦家族制 ― 現代の中心的な家族制】
例) 野比家 (ドラえもん)  野原家 (クレヨンしんちゃん)

夫婦家族制は、現代社会で最も主流な家族の類型です。夫婦の結婚によって家族が誕生し、夫婦の順次死別でその家族は消滅していく、いわば一代限りの家族です。
子どもは自立していくなかで親元を去り、自分の家族を作ることから親とは別の生活単位を構成し、それゆえ昨今では墓守りと老親の扶養が大きな課題とされています。

【複合家族制 ― 居住規則と財産の継承を基準にした類型】
例) 磯野家 (サザエさん) 
※ただし、カツオあるいはワカメが結婚し、引き続き同居している場合。

複合家族制は、2人以上の子ども家族と親兄弟の同居や生活の共同を原則としています。
子どもが結婚しても親と同居し続けることから、この類型は多人数家族になる傾向がありますが、父が死亡した際に子どもが抱えている家族ごとに分裂する傾向があります。
当類型は、平均寿命が短く、子どもが一人前になる前に親が死亡する事例の頻発する社会において、兄弟間の世代間扶養を確保するうえで機能的とされています。

(カツオあるいはワカメが結婚し、引き続き同居する場合には複合家族となる)

【家父長制とフェミニズム】

戦前期の家族の形態・役割は「家制度」に基づいており、当制度下においては男性優位の世界が敷かれていました。ゆえに、父親が家庭内で威張り散らしたり、暴力を振るったり、母親や子どもに家事労働を強いたりすることが日常化されていました。
このように家長を頂点とし、母親や子どもがそれに恭順するような形態を「家父長制」といいます。

●家父長制
「性と世代に基づいて、権力が不平等に、そして役割が固定的に配分されるような規範と関係の総体」(瀬地山)

家父長制のもとでは、家長の家族成員に対する支配や統制という意味が強く含まれ、最高の権威は年長の男性が握っていることが多く、それ以外の年少の男性と女性はその権威に従属することになります。この男性優位の制度を批判し、変革を求めた学問的・実践的な運動が「フェミニズム」です。
女性解放思想としてのフェミニズムは、その時々の時代背景や政治課題に応じて多様な立場が現れ、社会内に存在する性差や性差別に対抗し、女性であるがゆえに被る不利益や不正義を告発してきました。

現在は家制度の観念が衰退する一方で夫婦家族制が伸長しつつありますが、家父長制的な男性主導の観念や、必ず長子が家を継がなければならないという家制度的な感覚や事象が完全に消滅したわけではなく、更に夫婦家族制のもとでは墓守りや老親の扶養という看過できない問題も併存しています。

【近代化と性別役割分業】

近代化は家族に新たな変容をもたらすことになりました。

かつて自営業を営む家が多かったことからもわかるように、家内領域(生活の場)公共領域(仕事の場)は同じ空間に存在していました。しかし、近代化によって市場が成立したことで、それらは次第に分離されていきます。男性は会社に勤めるために会社員として外に出ていき、女性は家で家事労働を行うというような、性別役割分業が進んでいきました。その過程で新たに誕生したのが「近代家族」です。
近代家族とは、封建社会から資本主義社会への移行のような近代化の流れを受けて変容した家族をさします。

先述した家父長制のもとでの家族は、個人の自由が法律・慣習・権威といった制度によって極度に抑圧されているような「制度家族」の性格をもっていました。
近代家族はそれと対比して、親密性や情緒性という家族感情に支えられ、平等・対等の関係であることを理念とする「友愛家族」の性格を備えます。一方で、近隣との社交や交流の衰退、非親族の排除により、内閉的な集団性を特徴とします。

このような近代化に伴って誕生した性別役割分業を基軸とする社会下では、新たな問題が浮上してきます。
それは、男性が公共領域、女性が家内領域に固定化されることです。

男性  →  公共領域、つまり市場で営まれる有償労働に割り当てられる。
育児休業や介護休業を取得することの理解が得にくいことから、私的生活に参入しにくいという事態を生み出す。また、長時間労働や給料に反映されないサービス残業は家族との時間は家族との時間を奪い、子どもと接する時間が減り、母親の育児の孤立や負担の増大にも直結する。
女性  →  家内領域、つまり家庭で営まれる無償労働に割り当てられる。
女性が公的社会に参入したり活躍したりすることが困難になるうえ、たとえ共稼ぎする夫婦であっても、家庭に戻ると女性の側にのみ家事労働の負担が大きくのしかかることから、女性の側は二重の労働を背負うことになる。ホックシールドは、こうした女性が抱える現状を「セカンド・シフト」と名付けた。

資本主義社会において、家事労働は「アンペイド・ワーク(無償労働)」に分類されます。
公共領域の労働には、言うまでもなく労働の対価として賃金が支払われます。しかし、家事や育児といった家内領域での家事労働は無償であることから、市場で行われる賃労働の影の部分として暗黙に存在していました。

以前更新した「ワーク・ライフ・バランス」の記事でもまとめていますが、これ以外にも構造上の問題から男女間の賃金格差が生じており、また女性は男性に比べて政治家や経営者、管理職に就きにくいといった事実も明らかにされています。
そのため、このような日本の特徴的なワークスタイルは、メディアや国際比較などで長らく問題視されていました。

【まとめ ― 個人化する社会】

近代化に伴って、家制度下の「家」や伝統的な村落共同体は徐々に解体されていき、近代家族が誕生しました。そして、労働者は終身雇用・年功序列・企業内福祉といった性格を有する企業共同体に所属することになりました。

しかし、グローバル化や個人化の進展によって、社会は更に変容を続けます。

●個人化
個人が依拠する人間関係や社会集団の紐帯、個人が有するつながりの意識が弱体化・流動化し、自由ではあるが構造的に自己決定・自己責任の原則のもとに生きることを半ば強いられる社会状況が一般化する。(250頁)

近代化の初期段階で形成された企業・近代家族といった集団が人々を包摂する力を弱め、堅固なものから流動的なものへと変化していく過程が「個人化」である。(252頁)

(澤井,社会学の力)

1980年代以降、家族ではなく個人を生活の基本単位とする考え方が現れ、「友愛家族」の性格をもった近代家族はスタンダードな家族の形ではなくなっていきました。
更に1990年代以降は、グローバル化がバブル崩壊を契機に企業構造の転換を強制し、企業も徐々に共同体としての性格を弱めていきました。

このようなグローバル化と個人化が進展する社会では、繋がりの弱体化及び流動化が進み、家族や企業の形も変容していきます。
個人は家族から解放され、それにより離婚や再婚のほか、単身者の増大や未婚化が進んでいきます。そして、企業では共同体としての役割が弱まることで人員の流動化が進み、「年功序列」や「終身雇用」の時代は既に終焉を迎えつつあります。

このような社会下では、「自己決定」を半ば強いられ、「自己責任」が付きまとう傾向があります。つまり、離婚やリストラに迫られ、貧困に喘ぐことも自己責任と見なされ、こうした問題を個々人が自力で解決していくことを受け入れなければならないという社会の仕組みであり、ここで生じた格差は「努力の大小の結果」として見なされる論調があります。

冒頭でも述べたように、「家族」は普遍的なものとして存在してきたわけではなく、歴史や社会の流れを通じて変化してきたものです。それゆえ、現在の家族の形態や役割、そして社会における立ち位置は今後も変化し続けていくものだといえます。

個人化・グローバル化の進む社会のもとで、私たちはどのような生き方を選んでいかなければならないのでしょうか。
そして、これからの社会はどのような様相を呈していくのでしょうか。

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