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30歳独身、1人旅で訪れたニューヨークは不思議な街だった。


あの頃、私は29歳9ヵ月。あと3ヵ月で20代が終わる事に鬱々としていた。

結婚どころか、彼氏もいないので焦っていた。30までにはとっくに結婚していると思っていたのに、思い描いてた人生と全然違うではないかと、、

30代だって若いけど、20代というだけで恋愛市場ではチヤホヤされるのは終わってしまったという事実。  

10代の時は自分が30歳以降になるなんて信じられなかった。きっと世の女性はそうなのではないだろうか?

それくらい女性にとって30歳というのは、とても衝撃かつ特別なのである。

*

瀬戸内海の田舎から上京して4年、私は退屈していた。

自分にとって刺激的な場所が日常になってしまったから。東京は自分にとってお金を使う場所ではなく、ただ日常をこなす場所になってしまった。

環境によって幸福度が満たされていてたっていずれ飽きが来る。人間は欲深いから。

そんなことを考えながら、代官山の蔦屋書店にてたまたま手にとったNYの旅行雑誌。

NYは自分にとってTVでしか見た事ないフワフワとした世界だった。

NYという場所は本当に実在するのだろうか?

想像さえもできなかった。

行った事のない場所へ、自分の足で1人で行ってみようと決めた。

30歳になる自分からのプレゼント、思いっきり贅沢してみよう。久々にワクワクして高揚感でいっぱいになった。こんな気持ちなるのはいつぶりだろう?

英語は小学生レベルだけど、ツアーではなく全て個人手配にこだわった。ブロードウェイで大好きなオペラ座の怪人を鑑賞するのを目標に。

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ジョン・F・ケネディ空港に着いた時のモヤッとした蒸し暑い空気が今も忘れられない。

ターミナルのトイレで鍵をかけ忘れ用をしてる時に男性外国人にドアを開けられたのもいい思い出。

「オーマイガ!!!」って言ってすぐどっか言っちゃったけど。いや、今思えば私もしかして、男性用のトイレに入っていたのか?

まぁ、今となってはどちらでも良い。

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バスに揺られて約1時間、中心部グランドセントラル駅にたどり着いた。

降り立った瞬間、あぁ、自分はあのNYにいるんだと。

NYって本当に実在するんだ!とひたすら感動して胸がいっぱいだった。

蒸し暑くて、人が沢山いて、よく分からない言葉が交わっている。

目に見えるものが全て刺激的だった。瞬きする時間さえ勿体無いと感じた。

そしてNYは何より臭かった。

街中に大きなゴミ箱が色々な所に置かれていて、ホームレスも多いので彼らが異臭を放っている。

街並みももちろん場所によるが決して美しくはない。むしろ汚くて、なんて表現したらいいのだろうか全てアンバランスだった。   

一見オシャレに見えるブティックだって、5歩下がって見ると落書きがしてあるし、やっぱりお決まりのホームレスも隣にいる。

とにかく強烈な臭い、オシャレとは程遠い、不思議な街。

そう、ただひたすら混沌としている。そしてその混沌が非常に居心地がよかった。

ここにいると周りからは日本人すら認識されず、ただのアジア人その認識が心地良い。

やはりNYは人種のサラダボールだった。

*

NYでは様々な人種が互いの価値観や信仰心、ライフスタイルを尊重、共存し合えてるように感じた。

あれ、過去に戦争ってあったよね?信仰心から対立ってあったよね?いまもどこかで紛争はおきてるよね?NYにいてテレビのニュースさえ見なければどういう訳だか全てがハッピーエンド。

話す言葉も違う、信仰する神も違う、肌の色も違う。 

何もかも違うのに、ただNYが好きだからここにいる、という共通点のみを皆共有する不思議。

な~んだ。私もみんなマンハッタンに憧れてんだね。

互いの違いを当たり前に受け入れる事ができるなんて、「NY の魔法」のように感じた。

地下鉄では様々な人々がギューギューになりながら乗っている。

ただでださえ狭いんだ、お前のでかいケツで押すなよ!いやそれはあなたでしょ!?(そう事言ってるのではないかと妄想)

そんな風に時には喧嘩しながらなんだかんだ仲良く身を寄せ合ってる。

信号待ちの間、ホームレスが高級車の窓をトントンとノックして男性にお金をせがんでいた。

男性は窓を開けた。文句の1つくらい言うのかと思いきや数ドルほど渡していた。

あ、交じり合うことのない人達の人生が、一瞬交差した。NYはそんなハートフルな一面も見れたりもする。

億万長者であろう彼は、彼なりにホームレスを尊重しているのだね。「同志よ、マンハッタンで共に生きぬこう」と。

*

移民、億万長者、ホームレス。

国籍、肌の色、信仰心、話す言葉、あらゆる違い。様々なバックボーンを持っている人々が、タイムズスクエアで一瞬それぞれの人生が交差する。   

目を輝かせながら歩いてる私。

澄ました顔で片手にコーヒーを持ちながら誇らしげに歩いてるビジネスマン。

絶対にこの街から離れるもんかと、必死に粘り強くしがみついてるホームレス。

タイムズスクエアの交差点で、マンハッタンにいる感動を全ての人が共有する。

苦しみ、悲しみ、恨み、怒り、全ての憎悪。もう全て許してみようか。

だって私達は、誰もが憧れるNY にいるんだから。

今までの事を全て洗い流して、新しい自分に生まれ変われる。きっとやり直せるさ。

*

世界中の人が憧れる場所の存在って素敵だね。言葉が通じなくても、違いがあっても、「ここにいるだけ」とアイコンタクトで相手と通じあえた気がした。

どこからか、こんな声が聞こえる。

こんな感想は綺麗事、所詮綺麗事。だって現に今だって世界は憎悪でいっぱいで、人々は戦ってるではないか。それが人間ではないか。

そうだね、こんな感想は綺麗事だ。

そして私はNYの裏の顔を知らない、住んだらやはり「NYの魔法」なんて幻だったと打ちのめされるだろう。

それでも、だけど、こんな何度も使いふるされた陳腐な言葉と綺麗事を言ってしまうくらいに、世に起きている悲しい事を忘れさせてくれるのがNY。

五感で私はそう感じた。

そして、この時の1人旅の思い出が今も私を強くさせてくれる。

ありがとう、NY。



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