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支える巨人

いつの事だろうか。子供の頃からずっとその巨人とは近くにいた。この村のものなら誰しもそうだろう。村の入り口から見下ろすとそれは見える。巨人だ、何かを支える灰色に近い緑色の巨人がいるのだ。その何かと巨人の正体を誰も知らない。巨人は自分よりも大きく長い、例えるなら岩で出来た柱のようなものをずっと抱きしめて動かない。いつからあのままなのだろうか。少なくとも私の祖母の時代から身動きひとつせずにあの状態を保っているらしい。巨人も岩の柱も、この村の入り口から見るに相当大きい事はわかる。恐らく人が間近に近づいても、巨人からしたら蚊やノミにしか我々を認識できないだろう。我々からすれば山に例えても何ら差し支えない。その巨人が支えてる柱、それは長く雲を突き抜けて見上げても先は見えない。あの大きさをよく持てるものだと感心はするが、もしあの柱が折れたらと思うとぞっとする。あの大きさだ、折れれば落下して村まで落ちてくるかもしれない。我々の村ではその事から、巨人は神の使いで我々を守ってくださっているのだと教えられてきた。皆はあの巨人に祈りを捧げるが、私はどうもあの巨人を好きになる事は出来なかった。正体も目的もわからない、そのくせ我々に利益を与えてくれる存在を全て神と呼んでしまう、何というかそれが嫌だった。


ある日の事だ、私は村の遠くにある山まで赴き薬草を取りに出かけていた。他の町から遠い村にはまともな薬を仕入れる余裕はない。だから若いものが薬草をはるばる取りに行く。巨人と柱のおかげか、獰猛な野生動物は姿を見せない。村までは遠いが、山の上から小さいながらも巨人と柱は簡単に見える。あの存在感に太刀打ち出来るもの、恐らくそれが神なのだろう。籠一杯に薬草を詰め山を降りようとした時、それは見えた。柱が、宙に浮いている?違う、折れているんだ。あまりにも大き過ぎてそう見えてしまった。よく見れば、柱が、折れた柱が落下している。私は急いで村に戻った。


村は壊滅していた。柱の破片、すなわち巨大な岩が村全体に飛び散り押し潰していたのだ。戻って来るまでの道のりで、何度も轟音が聞こえたが幻聴などではなかった。ところどころ血が飛び散っているのを見ると、生き残ったのは偶然にも私だけらしい。皮肉なものだ、巨人を守り神と崇めなかった唯一の人間が生き残ってしまった。だが、恐ろしいのは他にあった。落ちている岩のそばに何かある。岩とは色が違う、ざらざらとした質感の何か。私がそれを見上げると正体がわかった。足だ、これは足の平だ。灰色に近い緑色をした足だ。これは、まさか、巨人なのか。私は村の入り口まで行くと、おぞましい光景が広がっていた。巨人が、何体もの巨人が倒れて血を流し木々をへし折り大地に倒れている。まさか、あの柱の上には巨人が大勢住んでいたというのか。無数に広がる巨人の死の中心で、うずくまる巨人がいた。我々が守り神と呼んでいたそれど。巨人はこの距離でも大きく轟く雄叫びをあげ、洪水と同じくらいの涙を流していた。巨人と柱の正体はわからないが、これだけは確実にいえる。


巨人は、我々を守っていた事など一度たりともなかったのだ。

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