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フォルカー・シュレンドルフ監督『ブリキの太鼓』子供から見た世界の残酷さ


<作品情報>

1920~40年代の激動のポーランドを舞台に、3歳で自らの成長を止めた少年の視点から大人の世界を描き、第32回カンヌ国際映画祭パルムドールと第52回アカデミー外国語映画賞を受賞した作品。後にノーベル文学賞を受賞するドイツの作家ギュンター・グラスの長編デビュー作を原作に、ニュージャーマンシネマを代表する監督フォルカー・シュレンドルフがメガホンをとった。ポーランドの港町ダンツィヒ。3歳の誕生日を迎えたオスカルは、大人たちの醜い世界に嫌気が差し、自らの成長を止めてしまう。それと同時にオスカルは、誕生日プレゼントにもらったブリキの太鼓を叩きながら奇声を発するとガラスが割れるという不思議な能力を身につける。ナチスの台頭によって町の平和が脅かされる中、オスカルの家族を悲劇が襲う。

1979年製作/142分/G/西ドイツ・フランス合作
原題:Die Blechtrommel
配給:フランス映画社
劇場公開日:1981年4月18日

<作品評価>

70点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

上村
普通に子供の目からみた戦争の現実、残酷さを描いたものだと思ってたらあまりにも異常で摩訶不思議な作品でした。こんな『ベンジャミン・バトン』みたいな映画だと思っていませんでした。
原作では悪魔的行動で自分を愛してくれる人々を次々に死に追いやり、最終的に自分を愛してくれる人が誰もいなくなったことに気がつくというなかなか救いのない話のようですが、この映画では意図的に悪魔的行動をとっているようには見えないですよね。ヤンの死にしたって読心術師の小人の女性にしたって彼の責任ではないしその意図はないようにみえます。
唯一意図的に思えるのはラストのナチスの党章でしょうか。それはこの話を反戦映画として再構築するにあたっては必要な描写でしょう。
不可思議な、一歩間違えば荒唐無稽になってしまう話を破綻なくまとめあげた手腕は大したものです。スローモーションなども駆使した映像表現は見事で、冷笑的でもあるような演出も効果的です。
予想とはかなり違いましたがなかなかユニークな作品で面白かったです。

吉原
ナチスによるポーランド侵攻から始まったと言っても過言ではない第二次世界大戦中のポーランドを題材にした戦争映画であるにも関わらず、内容は3歳で成長を止めたり、特殊能力を持っていたりとかなりファンタジー。
完全なるファンタジー世界での物語というよりも現実世界でこの物語を展開したからこそ、3歳の男の子がニヒリズムに陥る様をよりセンセーショナルに描けたのかもしれません。
また、今作の性の描写は子供(実際には何歳だったか確かではないが)の視点を使うことで、よりグロテスクに感じるように描かれていました。
自分の母親がラブホテルのような場所で男と密会し、セックスに興じる様を見た主人公オスカルの表情はポスタービジュアルに採用されるほど印象的なものでした。
さらに、今作の中には、非常に印象的なシーンが多数存在します。その中でも、馬の頭を使ってうなぎを釣る男のシーンは特に印象的です。
「馬の頭」というと「ゴッドファーザー」のワンシーンを思い出す人も多いと思いますが、今作にはその記憶を塗り替えるほどのシーンがあります。是非、ご自身の目で確かめてもらいたいです。
本作は子供を主人公にした戦争ファンタジーというジャンルでありながらも、オスカルが3歳にして成長を止めた意味とは。ブリキの太鼓にこだわる理由とは。ファンタジーな内容にも関わらず時代設定が現実的なのは何故か。オスカル他、小人たちに特殊な能力があるのは何故か。体と心の成長にアンバランスさを感じるのはなぜか。
と、言ったように沢山の問いが浮かんでくるタイプの作品でした。深く考えると非常に難解な作品なのかもしれません。しかし、内容自体はわかりやすいので、難解な名作に手を出してみたいけど、なかなか取っ付きにくいと感じている人におすすめできるかもしれません。

<おわりに>

 ニュー・ジャーマンシネマの傑作とされる一作です。摩訶不思議な世界観に我々を連れて行ってくれる作品でした。

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