見出し画像

エミール・クリトリッツァ監督『パパは、出張中!』ダークな社会風刺劇


<作品情報>

スターリンの影響から未だ脱け出せない1950年代初頭のユーゴスラビアを舞台に、時代の波に翻弄される一家の姿を体制批判をこめて描いたヒューマンドラマ。家族に囲まれて幸せに暮らしていた少年マリック。ところが、父親が愛人にふと洩らした国政批判のせいで逮捕され、強制収容所に入れられてしまう。不思議がるマリックに対し、父親は出張中だとごまかす母親だったが……。1985年度、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。

1985年製作/136分/旧ユーゴスラビア
原題:Otac na sluzbenom putu

https://eiga.com/movie/24840/

<作品評価>

80点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

上村
主人公のマリク、スピーチが上手く言えなくて泣いちゃうところはもう可愛くて可愛そうで…
あとは父親はクズなんだけど妻や子供を愛してはいる、というのがいいバランスでした。
やっぱりクリトリッツァは兄弟とか血の繋がりにこだわりがあるのでしょうか。本作で描かれた兄弟の政治的いざこざを壮大に発展させたのが『アンダーグラウンド』とも言えます。
マリクで夢遊病で歩くときの手が仏像の来迎印みたいで、その体型も相まって仏像にしか見えなかったです笑
ユーモアはさすがクリトリッツァ、突飛でおかしい。父親が酒場の姉ちゃんに足でちょっかいかけてるところに火つけるのは笑いました。最後も空中浮遊した!と笑いました。おもしろい。
『アンダーグラウンド』は盛大なおふざけ風刺劇だったけど、本作は割とまともに、しっとりと物語を語っています。個人的には隙がある作品の方が好きなので『アンダーグラウンド』の方が断然好きですかね。

吉原
クストリッツァ監督の作風は「ユーモアの中に、風刺を交えたハイテンション社会派コメディ」という印象だったが、初期の作品はそういうわけでも無かった。
確かに社会風刺が含まれており、自国の政権に対しての批判をしていることは上記の2作においても、本作においても同様であるが、「ハイテンション」の要素は本作にはない。
それによって良かった点としては、ユーモラスでありながらも真面目でシリアスな作品という印象を残せたことだろう。その一方で「アンダーグランド」のようなインパクトには欠ける。
内容的には、そこまで面白いとは思わなかったが、印象深いシーンは多くある。その中でも妻に「買い出し」と偽って子供を連れて女を買いに行くシーンは、ただ単に妻想いではない夫の身勝手という子供にとっても辛いシーンにも関わらず、遊びがあって非常に面白かった。
ユーゴ紛争でオリジナルフィルムを消失してしまったようなので、DVDにも関わらずかなり傷が激しい映像だったが、逆に味を出していて良かったと思う。

<おわりに>

 『アンダーグラウンド』のエミール・クリトリッツァ監督、インパクトに欠ける一方で風刺の効いた人間ドラマとして見応えがありますね。

<私たちについて>

 映画好き4人による「全部みる」プロジェクトは、映画の可能性を信じ、何かを達成したいという思いで集まったものです。詳しくは↓


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?