中学時代の話② 「天井から生える足」
この話は下記記事の続きですが、多分単体で見ても読めます。
中学の修学旅行初日、大好きな田沢さんにフラれた(というより告白すらできなかった)僕の友人・前野くんは落ち込みきっていた。
2日目以降のことを考えずに煽りまくった我々にも責任があるため、僕らも気軽に「落ち込むな」とか「頑張れ」とかは言えず、声をかけあぐねていた。
しかし、彼は自分の足で立ち直れる男だった。
「俺、2番目に好きな人に告白する」
修学旅行2日目の夜、前野くんはまさかの強気発言をぶちかましてきた。
言っていることは完全にクソ野郎であるが、彼の発言に男子一同は沸いた。
落ち込んでいた友達が立ち直った上に、そいつが修学旅行中に2人の女子に告白しようとしている。
この異常事態と前野くんの"意地でも彼女欲しい"という前のめりな姿勢が熱狂の渦を巻き起こしたのだ。
「前野、お前の覚悟見たよ。俺がお前の代わりに呼び出しの電話をかけてやる」
前野くんの心意気に感動した別の男子が、伝令役を買って出た。
しかし、この心遣いが裏目に出る。
呼び出すための内線電話をかけると、同じ部屋に昨日告白した田沢さんもいたのである。
部屋割りが初日の夜と変わっていたことを男子全員見過ごしていた。
50人もいるのに男子はバカしかいなかった。
こうして前野くんはまたしても告白できなかった上、別々の女子に日替わりで告白しようとしたクソ野郎と認識されてしまったのだ(まあ合ってるんだけど)。
修学旅行3日目の朝。
女子一同の殺意と軽蔑半々が混じり合った視線を向けられる前野くんは人生終わりと言わんばかりの表情で朝食も手につかないようだった。
僕らの学校は中高一貫だったため、彼はその後の高校3年間にも影響する好感度を失ったのである。
その絶望感が、彼をさらなる奇行に走らせた。
「俺、屋根裏に上って女子の部屋にいく」
3日目の夜に前野くんがそう言った時、男子はみんな「ああ、とうとう前野くんは壊れてしまった」と思った。
しかし、話を聞くとどうやらそうではないらしい。
彼の話を要約するとこんな感じだった。
「みんなが俺を後押ししてくれて、告白はできなかったけど一肌剥けれた気がする。
実は、昨日押入れの中に天井裏に入れる穴を見つけた。
女子に嫌われた俺に失うものは何もない。俺が女子の部屋の声を聞いて最新情報を入手し、みんなの役に立ちたい」
なんて友情に厚い男なんだ。
僕らのせいで青春を失ったとも言えるのに、あまつさえ感謝されているなんて。
僕たちは歓喜し彼を讃え、全力でアシストすることを決めた。
女子の部屋は3階、男子の部屋は2階。
ボロい旅館だし、確かに床下に入れば女子の声は聞こえるかもしれない。
僕たちは協力して前野くんを天井裏に押し上げた。
しかし、ここでもやはり彼は持っていない男だった。
僅か約1分後、前野くんの片足が天井をブチ抜いたのだ。
その光景はインパクトが強過ぎて一生忘れることができそうにない。
天井から足が突き出ている光景は本当に異様で、「犬神家の一族」逆バージョンを見てるようだった。
僕らは天井から突き出した前野くんの足と散らばった木片を見て、今晩も長くなることを直感した。
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