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我が青春はレンタルDVD店の中に

緑の坂道を登った後、一気に下っていく。
自転車から足を離して駆け抜ける下り坂で感じる風は、心地良い。

そうすると、地元で一番大きいレンタルDVDショップにたどり着く。
ここは、僕の青春を象徴する場所だ。

中学生の頃から映画が大好きだった僕は、足繁くこの店に通っていた。
とにかく品揃えが良く、価格も安かったのが学生には嬉しかった。

学校は寄り道禁止だったけど、僕の家は学校から電車で2時間半かかる場所で。誰も関知しようがない。僕は、週に一度は確実にこのお店に行っていた。

最初の頃は、ベタな超大作を観た。
マトリックス、スター・ウォーズ、スパイダーマン。
中学生だった僕を虜にしたアクション映画たち。

そして、興味はやがて往年の名作へと移る。
ヒッチコック、キューブリック、黒澤明。
映画好きの友達よりたくさん映画を観て、通ぶりたい。
そんな背伸びした感情を載せて、僕は自転車を漕いだ。

高校生になった僕は、とにかくアダルトビデオが見たくなり。
年齢を誤魔化して、名作2作でサンドするというありがちな手法でAVを借りた。田舎の年齢確認はガバガバだ。

けど、AVだけじゃなく名作2本も必ず観た。
今考えると、賢者タイムに観る名作映画が僕を本当の映画好きの道へ引きずり込んだのかもしれない。

性欲も薄れたころ、より幅広く色んな作品を観るようになった。
大学生の僕はモテたかったこともあり、ラブストーリーを良く観た。
恋愛映画で女性心理を学んで、モテたかったのである。
今考えるとなんと浅はかなのか。

モテという意味ではこの作戦は何の意味もなさなかったけど、この頃観た「ノッティングヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」は未だに観返すほど好きな映画になった。

サブスクリプションサービスの台頭もあり、最近はこのレンタルショップに行くことはめっきり減った。

でも、僕は今でも時々このお店に足を運ぶことがある。

自転車で緑の坂道を登った後、一気に下っていくと。
いつも変わらない風景が広がっている。

それを見ると、僕はいつでもあの頃を思い出せる。
純粋に映画が好きで、毎日何を借りるか悩みながら過ごした時を。
あの場所は、田舎の片隅で暮らす僕に夢を与えてくれた。

僕の青春は、確かにあのレンタルDVDショップと共にある。

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