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"シリーズ最高傑作"は嘘か誠か。「るろうに剣心 最終章 The Beginning」感想

楽しみにしていた「るろうに剣心 最終章 The Beginning」を観てきました。

結論から言うと、細かい不満はあるものの全体的には良かったです。

ストーリーについては、記事の中であまり言及していません。
原作やOVAに比較的忠実だし、元々良くできた物語なので。


シリーズの他作品とは完全に分断したつくり

先日公開された「るろうに剣心 最終章 The Final」といかにもセットっぽい本作ですが、実は「The Final」はおろかシリーズの他作品を観る必要もないほど単体で完璧に話が完結しています。

幕末、アクション、ラブストーリー。
「るろ剣」に興味がなくても、どれかの要素に興味があるなら楽しめると思います。
この作品からストーリーを追い始めるのも全く問題なし。


真剣を使った血みどろアクション

「るろ剣」の代名詞といえばハイレベルかつアクロバティックなアクションになるわけですが、本作は今までのシリーズとは違う雰囲気を見せています。
その違いの大きな要因は、剣心が使っている刀が真剣であるということ。

本シリーズや漫画原作・アニメをご覧の方ならもちろんご存知だと思いますが、剣心の振るう刀は反りの腹側に峰が来る人を斬れない剣・逆刃刀。
しかし、本作は剣心が不殺(ころさず)の誓いを立てる以前の時間軸を描いた作品のため戦闘は全て真剣によるもの。
これまでのシリーズではあまり意識していなかったけど、やはり血飛沫が舞うと映像の雰囲気が全然違う。一気に生死の狭間の匂い、緊迫感が漂う。
殺陣のアクロバティックさは過去作の方が上だけど、全編に渡ってこの緊迫感を活かしたリアリティある殺陣が展開される。

特に映画のOP、ロロノア・ゾロよろしく口で刀を抜き敵を次々と斬殺する剣心こと人斬り抜刀斎のアクションは衝撃。
圧倒的な強さ、残酷さがスクリーン越しに伝わってくる。


史実と絡む部分が多い登場人物

「The Beginning」の大きな特徴の一つは、実在した人物がたくさん登場することである。
本作だとレギュラーである斎藤一(江口洋介)に加え、同じ新撰組の沖田総士(村上虹郎)、長州藩維新志士の桂小五郎(高橋一生)、高杉晋作(安藤政信)といったメンバーだが、これが全員名演かつハマり役で。

江口洋介も気合入ってる感じしたし(ただ、剣心とのタイマンは欲しかったけど)、村上虹郎の病弱な天才剣士感もお見事。剣心と沖田総士のバトルは本作の殺陣では一番華があった。
高橋一生と安藤政信はビジュアルから既に役にぴったりで。新キャストはことごとくハマっていましたね。


監督の映像トーンと作品のムードが一致

実写版の「るろ剣」シリーズって、エンタメ超大作を謳いながらもどこか仄暗い映像トーンで作られているのが特徴的だったと思うんですよ。

このクリア過ぎない感じがThe Beginning=原作・OVAにおける"追憶編"の雰囲気と非常に合っているんですよね。

ある意味、大友啓史という監督は「The Beginning」のことを常に念頭に置きながらシリーズを取っていたのかもしれない。
それぐらいトーンと物語の雰囲気が合っていました。

シリーズ1作目に登場した巴(有村架純)の婚約相手・清里(窪田正孝)を抜刀斎が斬殺するシーンや、鳥羽伏見の戦いをうまく馴染ませたカラコレ、編集も見事だった。


有村架純演じる巴は見事

最初はキャスティングに"?"となったものの、有村架純の巴は見事でした。
普段比較的明るいイメージが強いだけにいい意味で裏切られた感。

途中油断したときに丸みを帯びた頰が見え隠れするのとウィッグに入れられたブルーのカラーが気になって「あれ?」ってなるときもあったものの、基本的な表情の作り方、立ち振る舞いをしっかり巴に寄せてきているのでそこまでは気にならず。
ここぞという時に見せる笑顔や涙には感情を揺さぶられた。

緋村抜刀斎=剣心を演じる佐藤健はさすがに盤石。
ただ、今回は過去作と比べると無表情なシーンが多いので、ちょっと演技が緩慢気味に感じてしまった気がしなくもない。
巴を殺してしまった時とか、もうちょっと感情を爆発させても良かったんじゃないかな。ここに感しては脚本や演出面の問題かもしれないけど。

ただ、ラスト付近で巴の遺体に「行ってくるよ…巴」と声をかけるシーンはグッときましたね。


"シリーズ最高傑作"は嘘か誠か

キャッチコピーにも使われちゃっているこの言葉ですが。
個人的には嘘ではないと思っています。
確かに一番話がシンプルで、キャラクターの心情描写がわかりやすい。
過去作にあるような「?」な流れもなく、途中グダるような演出もありません。
脚本・演出面は過去作と比較してもダントツで良くできていると思います。

というか、過去作では神谷道場近辺のシーンの演出に似たものが多かった(物思いに耽る、標語を眺める、雨に打たれる…)ので、本作にはそれがなく観やすかったのもあるのかな。大友監督やればできんじゃんと思いました。

ただ、全員が全員この作品を"シリーズ最高傑作"と評価するかは別問題で。
アクションは過去作の方が派手だし、暗いシーンも一番多い。
全ての面で過去最高、というわけでもないのでコピーに使うのは如何なものかと。
こういう言われ方されると過去作がイマイチみたいに思えてもきますしね。


"人間結界"の演出は観客に伝わっているのか?

これは原作・OVA履修済の人間として感じることなんですが。

終盤、剣心は巴を助かるための戦いに身を投じる。
刺客たちを倒していく剣心ですが、彼らは死に際に自爆して"結界"となり、徐々に剣心の五感を奪っていく。
具体的に言うと爆発を起こして聴覚を麻痺させる、閃光で視覚を麻痺させる、失血と寒さにより触覚を麻痺させる、というものですが。

この辺り、映画の演出できちんと伝わっているんだろうか。
もちろん僕は原作観てるからわかるんだけど。

剣心があそこまで弱体化して、目を閉じて戦っていた理由って初見の人は理解できたんだろうか。それが気になりました。
これが伝わってないと、その後のシーンわけわからなくなるからね。


何故白梅香の要素を廃したのか

まあ、原作やOVAのファンの一番の指摘事項となりそうなのがここなわけですが。

先ほども述べたように、剣心は敵との戦いの中で五感を失っていきます。
だからこそ、巴が飛び出してくることに気付かず自らの手で殺めてしまったわけです。

で、この時に原作やOVAでキーアイテムとなっていたのが"白梅香"
巴がいつも身につけている香りですが、剣心は欠如していない"嗅覚"で自分が巴を殺めてしまったことを知るわけです。

ただ、映画ではこの"白梅香"の要素が排除され、風車のようなものに置き換わっています。

“嗅覚”というのは映画で描くことが難しいものなんですよね。
表現するためには、主人公達にモノローグのセリフを追加しないといけない。わざとらしくもなりかねないから、製作陣は風車に置き換えたのでしょう。

これがねー。納得はいくんですけど、できれば変えないでいて欲しかったなあ。ここって原作・OVAでもキモな部分だと思うんですよ。
「伝説の最期編」でも処刑シーンでダサいモノローグ入れてたし、別にやっても良かったと思うんだけどねえ。


何はともあれ、10年間楽しませてもらったこのシリーズを見届けれて良かったし、大好きな原作を高クオリティで実写化してくれたスタッフ・キャスト陣には感謝しかありません。

ありがとう「るろうに剣心」
とりあえず、お疲れ様。


「The Final」の感想はこちら。


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