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ロック詩人・稲葉浩志(B'z)の歌詞の世界~人生の応援団長編~

稲葉浩志という男は、人を応援する天才だと思う。

B'zの楽曲はイメージほど歌詞の内容が明るくない。
暗い状況の中でもがき苦しみながらなんとか打開策を見つける、という内容の歌詞が非常に多い。

稲葉浩志は時にやさしく、時に激しく、時には独特の言い回しで私たちを鼓舞する。

インタビューなんかを見ると、稲葉自信真面目で悩みがちな人間だ。
だからこそ、聴く人の胸を打つのかもしれない。


Wonderful Oppotunity(1991)

アルバム「IN THE LIFE」に収録されている、記念ツアーで良く演奏される人気曲のひとつ。

この曲の歌詞でポイントとなる部分が、日常を描写するA~Bメロと一転ファニーに転じるサビの落差。
まずはA〜Bメロ。

手も足も出ないような 悩みに縛られて
ひとりきりむりやり酔っぱらって アルバムを抱いて寝た
目が覚めれば気分が悪い
それだけで 何も変わってないね やっぱり

明るいメロディのせいで気付きづらいが、この導入部分の歌詞は結構重め

悩みを忘れるために酒を飲み昔の思い出に浸る、でも目が覚めるとなにも変わっていない。
短いセンテンスだが、社会人1~2年目ぐらいの人には絶妙に響くあるあるを描写している。

そして衝撃のサビがこちら。

逃がさないで 逃げないで
胸の痛みと手をつないで 明日を迎えよう
イヤな問題 大損害 避けて通る人生なら論外
生きてるからしょうがない
シンパイナイ モンダイナイ ナイ ナイ ザッツライフ
イッツオーライ

この徹底した韻踏み、特に後半部「シンパイナイ モンダイナイ ナイ ナイ ザッツライフイッツオーライ」は神業と言っても過言ではない。
絶対稲葉以外に書けない歌詞だ。

何がすごいって歌われている内容の重さを言い回しで中和しているところ。
このテーマを大真面目に歌ったらメロディにも合わないし説教臭くなり過ぎてしまう。
この辺りの匙加減が絶妙である。


MOVE(1996)

「Wonderful Oppotunity」から5年後、まさかここまで音がハードになるとは。

「どうしてこんなにつらいのボクだけ?」
被害者意識に侵される
他人がひどくうらやましい そんな自分に
Oh 腹立つ毎日 手に負えない相乗効果

導入部のこの歌詞、個人的には非常に共感力が高い
自分だけがつらく、他人が眩しく、うらやましく思える。生きてれば毎日がそんなことの連続だ。

しかし、稲葉はこの曲においてそんな人を優しく励ますわけではない。

楽しい者勝ち 動けや MOVE ON,MOVE ON,NOW

と、余計な事考えないでやってみろよとこちらのケツを叩く。
しかし、ただ突き放すだけでもない。

がむしゃらな日々は報われる
思いやり無きはバチ当たり
時の流れさえついてくる
自分で進みゃついてくる MOVE ON,MOVE ON,NOW

毎日目の前のことを一生懸命にこなすことで手一杯で、これで良いのかと日々自問自答している人も多いと思う。
こういう言葉をかけられたい人は、世の中に案外多いんじゃないだろうか。

アメとムチの使い方が絶妙。
さすが稲葉。教員免許を持っているだけのことはある(?)。


さまよえる蒼い弾丸(1998)

ついに弾丸そのものになってしまった漢・稲葉浩志。

曲自体は90年代後半のデジロック路線の究極系といった内容で、現在でもライブで頻繁に披露される名曲。

歌詞全体も曲調に合わせ「アレルギー」「無菌状態」「血管の中が 沸騰するような 異常な事態」等勢いあるワードが使用されており、実にライブ向き。

曲全体のテーマは”変化”すること。

落ち着く場所ありますか?って
そんなのまだいらねぇ~

B'zはこの時点で既に超一流アーティストだったはずだが、稲葉は変化する意識を常に失わない。

サビは、メロディの勢いも相まって更に背中を押される。

飛びだしゃいい 泣き出しそうな 心を蹴って
さがせばいい 街に消えゆく 夢の切れはし
さよならしよう じっと電話をまってる日々に
旅すりゃいい 僕はさまよう 蒼い弾丸

待ってるだけの退屈な人生なんて捨てちまえ、という力強いメッセージ。
こんな言葉を一流なのに変化を恐れない男・稲葉に言われたらこっちだって変わるしかない。

衝動(ショック)にヤられ 目が覚めたなら
旅すりゃいい そうです君は 蒼い弾丸

そう、そんな衝動(ショック)にヤられ目覚めた瞬間から、僕らも稲葉と同じ蒼い弾丸なのだ。


GO FOR IT, BABY -キオクの山脈-(2012)

経験や記憶に囚われず自己最高を目指せ、というこれまでありそうでなかったタイプの応援ソング。

なぜだか期待外れ 前に食った時の方が美味い
って勝手にがっかりしてしまうなんてよくある話

食にしても恋愛にしてもそうだけど、知らず知らずのうちに過去のイメージに囚われていることって往々にしてあるんじゃないだろうか。
でも、過去を再現しようとするとそれを超えていけることはないんですよね。
だからこそ、稲葉はこう歌う。

あの日に帰りたいと望んでもThere is no turning back

時間は不可逆。
過去最高は未来にしかない、というシンプルなメッセージ。

Go for it, baby コエテユケ 最高の瞬間を
じっとみつめたら 捨てちまえ
I love you, baby コエテユケ 再現不可能のライブ
思い知ったら ふりむかないで
本当の最高はこれから始まる

ダンサブルな曲調やより重くなった演奏のせいで気付きづらいが、歌詞のテーマ的には前述の「さまよえる蒼い弾丸」に似ているのかもしれない。


これまでのB'z・稲葉浩志歌詞レビューはこちら。


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