風を追い越して

大人になってから全力疾走したことがある人って、一体どれぐらいいるんだろう。

健康やダイエットのためにジョギングをしている人は多いと思うけど、全力疾走って中々ないんじゃないだろうか。

30歳を過ぎて久々に全力疾走すると、中々愕然とする。
高校の頃は50mを6秒台で走っていたのに、50mを全力で走りきれるかも怪しい。

物理的に足が速かった頃は、体も心も軽かった気がする。
毎日に悩みもなければ、こんな無理して動いたら靭帯切れるんじゃないかなんて不安もなく。
躊躇いなく全力で走ることができた。

今はどうだろうか。
明日の会議の資料どうしようか。
賃貸の更新費用払わなきゃ。
元気なうちに母に会えるのはあと何回だろうか。
いつか結婚できるんだろうか。
僕は、世間から見て「普通」なんだろうか。

世の中も頭の中もおんなじぐらいややこしくて、解決しない悩みがぐるぐると巡る。
衰えた肉体とぐちゃぐちゃの頭じゃ、そりゃ早く走るなんてできっこない。
走る時は、風を追い越すことだけを考えた方がいい。

考えてみれば、人生も同じなのかもしれない。
解決しない悩みを考えていても仕方ない。

会議の資料は自分が作らなきゃ諦めるしかないし、賃貸の更新料なんて払うか引っ越すかしかない。
元気なうちに家族に会えるのがあと何回か考えるぐらいなら、今すぐに会いに行って感謝を伝えた方がいい。
結婚なんてしたければすればいいし、したくなければしなければいい。
自分が「普通」かなんて、考えるだけ無駄だ。

もっと、風を追い越すことだけを考えて生きていければ楽なのになぁ。