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バックパッカーズ・ゲストハウス㊼「上野ぶらぶら」

 前回のあらすじ:秋葉原でオタ芸を見て、その熱量に魂が震えた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2


 秋葉原から上野へ向ってよく歩いた。山手線の高架下に、ビリケンをもっと丸くしたようなお気に入りの落書きがあった。それを見たり、アメ横で、周りの魚屋がダミ声で呼び込みをするのをマネしたのか、ケバブ屋の外国人がおかしなイントネーションで、「オイシイ、オイシイ、オイシーヨ。イラッシャイマーセー」と声を張り上げたりしているのを見ながら、ただブラブラした。秋葉原、上野間で何度か、天を突くように長髪を上へ向けてガチガチに固めたお爺さんが自転車に乗ってる姿を見かけた。

 急に大雨が降ってきた日に、上野駅近くのコンビニ前で、雨宿りをしていた女子高生三人組に向って、ニコニコしたデブが自分の傘を見せながら、
「ここのコンビニで、五百円で買えるから絶対買った方がいいですよ」と話しかけていた。突然現れた、少しおかしな様子の男に向って、子供を相手にするように、「そうなの~」と返す濡れた女子高生を見て、「都会の子は大人びてるな」と思った。

 上野駅には、「パンダ橋口」という出入り口があって、とにかくデカいジャイアントパンダの人形が飾っていた。そこから公園方面に行けた。
 上野公園を歩いている時に、池の上に浮かぶように、赤い建物があるのを見つけた。寺にありそうな建築で、「まあ、なんかそういうもんなんだろうな」と思いながら眺めていると、

「あれは、何ですか?」と話しかけられた。見ると綺麗な身なりの白人が二人立っていた。ブライセンと名乗る声を掛けてきた男は、「あれがなんなのか」なんてことに本当は興味がなくて、モルモン教に俺を誘うことが目的だった。ブライセンは私が被っていたハットを指して、
「とても格好いい」といった。
「私も被りたいけど、教えで禁止されている」とも言っていた。

 帽子を被る被らないぐらい教義ではなく自分で決めろと思ったが、私は人の話を切るのが苦手なので、新宿のオフィスビルでクリーニング屋の話を聞いたとき同様、かなり長い時間付き合って、冊子を貰って連絡先を交換し別れた。ゲストハウスに帰ったあと、上野の池に浮いていた建築物を調べたついでに、モルモン教についても検索してみた。それで、信者はガーメントという名前は格好いいが、見た目は薄手のステテコにしか見えない、肌着の上下を着用していることを知った。帽子は禁止でガーメントの着用は義務づけられている。もらった冊子にはそういう重要なことはなにも書いていなくて、神がどうのとかいった日々の生活にまったく影響を与えない、どうでもいいことしか書いていなかった。

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