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SNSと本選び。 令和の読書遍歴

今こういう本読んでるんだよね」。
そう言われると、読書好きとしては頼もしく心地よくなります。本に限らず音楽とか芸術とか映画でもいいんですが、文化に触れる。自身の教養を保つ。

歳を重ねるにつれ、ほとんど本を読まなくなる人もいて、昔のように本を紹介し合ったりする間柄ではなくなることもある。学生時代は本を読んで当たり前(のはず)だったのが、家庭を持ったり転職したりとそれぞれの状況が変われば仕方のないことでしょう。寂しく思う時があります。

しかしSNSはそこを補ってくれる。そんな体験を記してみます。

TLと芋づる式と:ツイッターから

文化人類学者・磯野真穂さんの『ダイエット幻想』(ちくまプリマー新書)という本を読みました。本書を私が「実際に手に取って読むまで」には、いろいろな偶然が関与しています。

私はダイエットをしていませんし興味もありません。しかしTwitterのTLを眺めていると、本書が目にとまり、さらにどうもダイエットに留まらない、自己と他者の関係性を話題にした内容であるという紹介があった。
Twitterをやっている人ならお分かりかと思いますが、スマホをスワイプしてダーッとTLを眺める。「タッチの差」というか、ほんの一瞬目にとまったことが、本書を手にするきっかけでした。副題が「やせること、愛されること」であっても、題名だけで私が本書に興味をもつことはなかったでしょう。
最終章の「踏み跡を刻む」「ラインを描く」という人間関係の在り方(ここでは詳説しない)がいまいち理解しづらかったのですが、本書で紹介されていた、磯野さんと急逝された哲学者・宮野真生子さんによる往復書簡『急に具合が悪くなる』(晶文社)にいざなわれたのでした。件の最終章の内容については、こちらのほうが分かりやすかったし、むしろその現場を往復書簡というかたちで見せてくれています。

そこにまたTL上で、たまたま病理医・ヤンデル氏さんの『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)の発売を知る。そしてヤンデル氏さんのツイートから、写真家・幡野広志さんの『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)を知る。たまたまなようで、そういうふうに最適化されていく面がTwitterにはありますが(というような内容は『ダイエット幻想』に書かれている)。TLを眺めている最中、眼球はものすごく動いているらしいのですが、そうやって検索をかけているのでしょうか。

これらは話題の本、あるいは売れている本ですが、内容的には普遍的、本質を突いたものです。さらに、またTL上で私が好きな仏教書をチェックしていると、臨川書店から「シリーズ実践仏教」が刊行されることを知っては感激し、仏教学者・船山徹さんの『菩薩として生きる』を発売と同時に購入しました。やや専門的なようで一般人向けの内容とされています。

さて、『急に具合が悪くなる』は「紀伊國屋じんぶん大賞2020」で10位にランクインしており、それ関連のツイートから、他の入賞作品にも自然と目が移ります。そして1位となった、臨床心理学を専門とする東畑開人さんによる『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)を夢中になって読みました。(他にもありますがきりがないのでやめます)

今しがた6冊を紹介しましたが、これらはそれぞれ内容が重なり合うところがあるし、そういう選び方をしているといえます。この20年で書の選定については、あまり外さなくなりました(それがいいのかはまた別の話ですが)。

タイムラインの効能

読んだ本について、写真つきで感想をツイートすれば、著者や出版社の方がRTとかいいねしてくれたりする。以前、出版社の営業の方から連絡いただいた時がありましたが、家族で読んでいる旨を伝えると、編集担当者にも伝えてくださり、ウインウインといいますか、嬉しくなりました。

先に書きましたが、たまたまツイートを見て、上のような読書遍歴になったといえます。しかし偶然を見せかけて、やはり「タイムライン」という形で、自分が気になりそうなものを繋ぎとめている、辿れる、手繰り寄せられる仕掛けとなっている。そういうツールなんだよなと、今更ながら気づきました。(偶然は別の偶然と掛け合わさった時点で偶然と呼べるのか?)

Twitterを使い始めて十年近くたちます。デマやクソリプは後をたちませんが、一周まわって、よいものをシェアしようという点で、私の読書生活を楽しくさせてくれるツールであり、購買意欲を刺戟する諸刃の剣でもあります。そして、上記のすばらしい著作へと導いてくれる、好奇心に満ちた言論空間です。■

写真はカーネーションと最近読んでいた本。久々に花屋入った


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