見出し画像

【詩】狂人ゲエム

参加の意思を問われたことはなく
予めルールを説明されたこともなく
気づけば強制的に、ゲエムの舞台に投げ込まれていた

こんな莫迦げた話もないが
まあ、仕方ないかと手札を切ってみて
何やら面白いことも楽しいこともありそうだからと
しばらく興じては見たものの

そのうち
ルールを読み取って適応するのも疲れてきて
努力と忍耐で有利な手札を集めるのも面倒になってきて

これは延々と続けるほど面白いものなのか
これを延々と続けなければならぬ道理とは何なのか
そんな疑問がふとよぎったが最後
もうすべてが莫迦莫迦しくなるのだが

いかんせん、自由参加でなかったのに途中で降りることは容易でなく
かと言って、時が満ちれば意に反して強制退場させられる

なるほど、芥川の言う通り
遊泳を学ばない者に泳げと命ずるがごとく
ランニングを学ばない者に駆けろと命ずるがごとく
我々は莫迦げた命令を負わされて
理不尽な狂人ゲエムに巻き込まれている

周りを見れば、疑うことなく嬉々として興じる者もあるのだが
その実、見えぬところで傷つき疲れ、満身創痍なのかもしれず
誰も彼もが手持ちの札を睨みながら、四苦八苦している

「ゲエムの莫迦莫迦しさに憤慨を禁じ得ない」ながらも
「さっさと埒外に歩み去る」こともできずに
今日もゲエムを楽しむふりして、白けた心で闘っている

たしかにゲエムには特有の面白さがあるにはあるが
さりとて飽きても苦痛でも、配られた札の不公平と不均衡に憤っても
容易に降りることを許されず、創痍を受容せねばならぬなら
何故そうまでしてゲエムを続ける必要があるのか

参加したいと手を挙げた者などいなかったのに
始めてしまえば続けるしかない、狂人ゲエム
 



芥川龍之介の随筆『侏儒の言葉』の「人生」という節を参考・引用しました。
『侏儒の言葉』は、青空文庫の下記ページからどうぞ。


この記事が参加している募集

作品を気に入って下さったかたは、よろしければサポートをお願いします。創作の励みになります。