【ショートショート】甲子園に行きた過ぎて友達失ったやつ
あれだけ毎日一緒にいたのに、2年振りに集まるとなると緊張するものだ。僕は高校生の頃、野球に熱中しており、部活の仲間とは毎日一緒に練習し、テスト前には教室に残って勉強し、休みの日には隣町に自転車で繰り出し、ゲームセンターやカラオケで遊んだ。
地方予選は2回戦敗退。悔しかったが、練習試合のときから自分たちはそんなに強くはないと思っていたし、まあこんなもんか、程度の感覚だった。数人だけ泣いているメンバーがいて、逆に目立っていた。その中の一人がアキラだ。彼は一段と強い熱量を持っており、本気で甲子園を目指していた。
今日はアキラと、同期の仲間と2年ぶりにある。駅で待ち合わせをしている時間もそわそわしている。
「ひさしぶりい!」ちょっと行き過ぎてるくらい陽気に声を掛けられ、そこに立っていたのはアキラだった。
わらわらとみんな集まり、馴染みの中華料理屋へ向かう。なんと後輩が地方予選の決勝戦に進出したので、それをみんなで観戦するために集まったのだ。
何度くぐったかわからない、くすんだ赤色の暖簾をくぐる。
「おっちゃん、元気?来たよ!」
「おおう、お前ら、全然変わらねえなあ。ちょっとは垢抜けろって」
笑いに包まれ、
「今日うちの高校の決勝があるんだ。テレビ、見てもいいかな」
店主はもちろんと頷き、フロアの角に吊られたテレビのチャンネルを合わせる。
試合開始のサイレンともに、思い出話も封を切ったように始まった。
野球の話なんてほとんどしていなかったかもしれない。名物教師が教え子と結婚したらしい、同級生が軽犯罪で逮捕された、有名ユーチューバーになっているやつがいる。
ほぼ全員が、「俺ら、同期でほんとよかったわ!高校3年間めちゃくちゃ楽しかったもん!」と言っていた。
残念ながら、試合は雲行きが怪しい。5回の時点で4対0。
話がはずんでいる中で、アキラが画面を見ながら「うおー!」と叫んだ。
思わず皆テレビにくぎ付けになる。
満塁ホームラン。一気に同点だ。
しかもホームランを打ったのは、アキラがバッティングを教えていた。後輩。
そこからは会話よりも試合観戦に集中する緊迫した空気になった。
9回、2アウト2塁。一打逆転。どうなるか。
手に汗を握り、テレビを見つめる。
その瞬間、中華料理屋の外まで歓声が響いた。
逆転勝利。後輩たちの甲子園が決定した。
そのとき、アキラは叫んだ。
「くそ!あと2年遅く生まれとけば!」
僕たちは耳を疑った。驚き戸惑い、ふとアキラを見る。
「なんだよ、そしたら俺たちと同期じゃないじゃんか」
「そうだけどさあ」
アキラは本当に悔しそうだった。
「俺はマジで甲子園、行きたかったんだ。くそ、2年遅く…」
まだ言っている。
みんなアキラの熱量は尊敬していたが、今回ばかりは若干引いていた。
翌年の新年会。アキラは呼ばれなかった。
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