彼らが神様だった頃
小さい頃、両親は神様だった。
何をするにも両親の言うことが正しかったし
身につけるものは
全て両親が買ってくれたもので
出かける場所は
全て両親が選んでくれたところだった。
両親が私の全てだった。
海外に出張に行き
難しい本を読む父を私は尊敬していたし
いつも違ったアクセサリーをつけて
デパートで洋服を選ぶ母に私は憧れていた。
両親は紛れもなく、私の神様だった。
少しずつ私の世界が広がって
両親のいない世界がどんどん大きくなって
やっと両親の助けを借りずに
自分の足で立つことができるようになった。
神様、今までありがとう。
そんな気持ちを込めて
今年の誕生日に
父には革のブックカバーを
母には揺れるピアスを贈った。
だけど
父は定年してから本を読まなくなって
母はもう歳だからと着飾らなくなった。
薄々気づいていたけれど、目を背けたかった。
父の自慢だった丘の上のマンションは
去年売ってしまったし
母の綺麗なアクセサリーは
ほとんど知人に譲ってしまった。
お洒落なデパ地下よりも
近くのスーパーのお惣菜を好むようになり
海外の紅茶よりも麦茶を沸かすようになった。
父はテレビを見ながら昼寝をするようになり
母は自分で作った服を着るようになった。
いつまでも、神様でいてほしかった。
私が超えたかった父はもういない。
私が目指していた母はもういない。
残ったのは
出張で全国を転々としながら
大量の本を読み漁っても
farfetchで鞄やアクセサリーを買い漁っても
いつまでも神様にはなれない私だけ。
だけど両親は
神様だった頃よりも幸せそうで
神様だった頃よりもあったかい。
そんな2人はあの後
プレゼントを泣くほど喜んで
母はピアスを愛犬に見せびらかしていたし
父は「60歳からの人生を楽しむ技術」を
嬉しそうにブックカバーに挟んでいた。
あまりの人間臭さについ、笑ってしまった。
お願いだから、1日でも長生きしてね。
もう、神様じゃなくていいから。
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