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【創作 掌編・短編】掌遊び

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拙作の掌編または短編をまとめてあります。
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#毎日投稿

【掌編】「人生で一度きりの誰も食べたことなんてないレシピ」/#2000字のホラー

【掌編】「人生で一度きりの誰も食べたことなんてないレシピ」/#2000字のホラー

今日も、私の食卓は映えている。

自分で作った料理を、KwitterにUPするようになって、1年。
元々食べることは好きだったけれど、作ること自体は苦手だったので、その記録くらいのつもりだった。
レトルトのものを使ったり、出来合いのものにちょい足ししながら、アレンジするのが楽しかった。

「お皿に出すだけでも食べられる。
でもちょっと足し算するだけで、カフェにいるような気分になれる。」

最初は、

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【掌編】見透かされた悪夢

【掌編】見透かされた悪夢

足がずぶずぶと飲み込まれていく。
泥水のような、もっとねばつくような、スライムみたいな水。
必死で足を前に出す。
重たい重たい。
なんとか抜け出さなきゃ。

ビシャッ…

助かった

今度は上から滝、そして剛流が押し寄せてくる。
そのまま小さな箱に閉じ込められる。
やばいやばいやばい。
どんどん水が溜まってくる。

パリン

助かった

え?え?今度は何?
ここ自分の部屋だよね?
だよね?
なのに

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【掌編】 やさしさほどける “小さな口福”

【掌編】 やさしさほどける “小さな口福”

梅雨が来ない。

そう思っていたら、とんでもない猛暑に襲われ、息も できないような暑さが続いた。
なんとかそれに身体が慣れてきたかと思ったら、今度は梅雨が戻ってきた。忘れ物をした気まずさか、しっとりとしたところのない乱暴な雨が続く。

こんな天気が続くと、湿気が体に染み込んで、ずっしりと重苦しくなってくる。頭はサイズの合わないヘルメットを被らされているようだし、肩や首の周りには鱗

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【掌編】紙婚式 blanc

【掌編】紙婚式 blanc

結婚式を挙げてから、ちょうど365日目。

お互い結婚記念日には、プレゼントを送り合おうと決めていた。

コンビニに寄ってスマホを取り出す。
コピー機の前に立った。
使うのは初めてだけど何とかなるだろう。
指示されるままに操作する。
意外と時間がかかるな。
しまった、どうやって持って帰ろう。
こういうとこだ。
困っていたら、店員が、小さな袋を渡してくれた。
サービス抜群だな。

「ただいまー」

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【掌編】紙婚式 noir

【掌編】紙婚式 noir

仕事して、呑んで、適当に遊んで。
そろそろ帰るか、仕方ない。

おや?

電気がついていない。
先に寝てることはたまにあるけれど、なんだか人の気配すらない。

奮発して買ったダイニングテーブル。
傷も油汚れもほとんどない。
数えるほどしか使ってない。
その上に結婚式の招待状のような封筒。

開封。

1枚目。

2枚目。

ああ、そういうことか。

溜息とも嘲笑ともつかぬ息を吐きながら、ポケットか

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【掌編】夜に染み込む  “小さな口福”

【掌編】夜に染み込む “小さな口福”

急な冷え込みに体がついていかない。

すっかり桜も散ったし、このまま夏になると思っていたのに、なぜかこのところひどく寒い。そのせいで衣替えも出来ずにいる。とはいえ、厚いコートはさすがに重苦しく、冬物の上にスプリングコートを羽織るというチグハグさ。

仕事は予定外のタスクが入り、何かとバタバタ忙しかったし、久しぶりに会った取引先の相手は、何だか妙に苛々していた。
焦りとか苛立ちとかは伝染する。

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【掌編】魔法の水  “小さな口福”

【掌編】魔法の水 “小さな口福”

ずらりと鶏の胸肉が並んでいる。

合計4枚。
皮はすでに剥ぎ取られていて、淡い桃色のツルリとした生々しい肌が露わになっている。

もも肉は2枚で1羽分というのはわかるけれど、胸肉はどうなのだろう。
右と左の乳房のように、これも2枚で1羽分なのだろうか。

いや、鶏は哺乳類じゃないから、いわゆる胸はなかったか。

すぐ横に計量カップ。
中には200ccの水に大体小さじ2杯ずつの塩と砂糖。
ブライン液

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