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もしも。願いが叶うなら。戻らないかな。1秒でもいい。次は。もっと。大切にするから。次は。もっと。キミだけを見てるから。もっと。ずっと。【足音】

忍び寄ってくる足音。
気づいた時には、遅すぎるのかもしれない。
ボクは、ただ、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


チク。タク。チク。タク。

聞こえてくる。
時の進む音が。
どうしても抗うことが出来ない、神の足音。

今までのボクは、そんな音など聞こえてこなかった。
それどころか、24時間のあまりの長さに、うんざりしていた。

どれだけ願ったことだろうか。
1秒でもいいから、この時間が終わることを。

どれだけ恨んだことだろうか。
1日という、途方もない永さを。

そんなボクには、聞こえてこない。

足音なんて。

だって、ボクの足音さえ分からないんだ。

聞こえてくるのは
ボクを埋め尽くさんばかりの、バタバタとせわしない足音。

聞こえてくるのは

チッ。タクッ。チッ。タクッ。

人だかりの中から響く、舌打ちの音。

耳に残る。
嫌な感触が。
そんな音を、ボクも出している。

『チッ。つまらない。早く。終わってほしい。早く。終わりにしたい。』

そして、ボクは、時の進む音が、完全に聞こえなくなった。

もう何も分からない。
今日1日、何があったかを。
明日1日、何がしたいかも。

ボクに分かるのは『チッ』という、不快な音だけ。

そんな『チッ』が
そんな嫌な音が

いつだっただろうか。

『チョッ』
に変わっていた。

コイツらと出会って、時の進む音が、聞こえるようになった。
コイツらと出会って、神の足音が、ものすごい速さで迫ってきた。
コイツらと出会って、1年が1日のように感じていた。

でも、気づいた時には、遅かったのかもしれない。

もっとコイツらとの時間を大切にしたい。

そう思った時には、もう、後ろに立っているんだ。
哀しげな表情を浮かべた神様が。

ボクは、その足にしがみつき、額を地面にこすりつける。

「お願いします。もしも。願いが叶うのなら。時を戻してくれませんか。」

「なぜ、今さら、それを願う。そなたは、いつも呟いていたではないか『早く終わらないかな。』と」

「おっしゃる通りです。虫が良すぎる話だと思います。だけど、ボクは、アイツらと出会って変わったんです。『チッ』が『チョッ』に変わったんです。」

「『チョッ』に変わったとな?」

「そうなんです。『チョッ、チョッと待ってよ。』に。おかしな話ですよね。こんなにも、時間が過ぎるのを切なく想うなんて。こんなにも、1秒が愛おしいなんて。」

「そなたは、大切なことに気づいたのだな。だが、ワタシには、時を戻すことは出来ん。」

「なぜですか。1分でもいいです。いや、1秒でもいいんです。お願いします。どうか。」

「そなたの気持ちは分かる。ワタシもずっと、そなたたちを見てきた。何日も何年もな。自然に笑うそなたの顔を、嬉しく思ったよ。なんて、良い顔をするようになったと、ワタシまで笑顔になった。」

「それなら。それなら。」

「そんな哀しい顔をするではない。そなたは、分かったはず。時間の大切さを。出会いがあれば別れもある。それでも、そなたなら、もう、投げだしたりしないはずじゃ。だから、そろそろ戻るんじゃ。そなたが帰る場所に。」

「イヤです。イヤです。」

ボクの願いは叶わなかった。

ボクは、呆然と立ち尽くしていた。

何が起きたのだろうか。

それは、一瞬の出来事で、まだ、理解が出来ていない。


ボクは、自分探しにハマっているタケルと、学校の屋上で話をしていた。

お調子者のケントがいないね。
どこに行ったんだろうね。

そんな、他愛もない話だ。

そこには、自然と笑うボクがいて、時を憂うボクがいた。

次の瞬間。

身軽になるのを感じた。

何が、起きたのだろうか。

なんだか、さっきより、屋上の風が冷たく感じる。

さっきより・・・

「チョッ、チョッ待てよ!何してんだよ」

「グハハァ!見たか!華麗なるオレのズボンさばきを!」

どうしようもないアホがいた。

ボクのズボンは、完璧なまでに、下ろされていた。


もしも。願いが叶うなら。


1秒でもいいから。

戻らないかな。


次は。


もっと。


キミだけを見てるから。


次は。


もっと。


ずっと。

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