どこにあるんだ。幸せは。ここかな。そこかな。あそこかな。 【1cm】
もう少しで、届きそうな気がした。ボクが求めているモノに。
毎日が幸せです。
なんて
胸を張って言えない。
幸せは自分で見つけるもの。
起きた事象に対して、あなたがどう捉えるか。
それによって気持ちは、変わってくる。
いつもの日常は当たり前ではない。
今日も起きられるなんて幸せだ。
朝ごはんが食べられるなんて幸せだ。
水道水が飲めるなんて幸せだ。
たしかに、そうかもしれない。
それでも、やっぱり。
幸せを探している、ボクがいた。
「幸せなら手をたたこう!!はい!はい!」
お調子者のケントが、パンパンと音を鳴らしている。
「幸せなら手をたたこう。確かに明るくなる気がするな」
自分探しにハマっているタケルも、少し手を叩いていた。
「だよな!」
「しかし、もしも幸せじゃなかったらどうするのだろうか。手を叩かないのだろうか。それとも、手を叩くことから始めれば、自ずと幸せに感じるのだろうか。きつい時こそ、『笑顔で』と言われることもあるぐらいだ。幸せじゃない時こそ、ワタシたちは、この手を・・・」
自分探しのタケルは、幸せが、どこから生まれて来るのか、模索していた。
「難しいよね。幸せって感じること」
「幸せじゃない時に、どうするかが大切だな」
「そうだよね。幸せじゃない時は、どうしよっか」
「ちなみに、どんな時が幸せじゃないんだ」
「そう言われると、難しいな。ケントはどんな時が、幸せじゃないの」
「オレには、分かりません!でも、幸せかどうかって聞かれたら、『幸せです!』って答えるわ」
「なんで」
「『なんで』って聞かれると、言葉ではうまく表せないけど、なんとなくで、いいんでねぇの」
「結局、幸せじゃないならどうするんだよ」
「『幸せじゃないなら、なんとなく手を叩こう』でいこう」
「『なんとなく』って。いい加減だな」
「それぐらいがちょうどいいんでねぇの」
「そういうもんか」
「そうよ!だから、適当にいきましょう。」
「まぁ。そうだね。」
「幸せについて考えるなんて、冷静になると、ちょっとハズいな」
「まぁ、このメンバーなら、今さら恥ずかしいとか、ないような気もするけどね。」
「なんだかこそばゆいわぁ~。背中が痒くなってきた。」
ケントは、自分の背中をかこうとしている。
「もうちょい。ぬぁ~。ムリだ。届かねぇ。ちょっと、背中かいてくんね」
「いいよ」
ぼくは、ケントの背中を見る。
授業中に、いつも見る背中。
学校の帰り路に、いつも見る背中。
ボクが笑った先に、いつも見る背中。
「どこら辺が、かゆいの」
「背中の真ん中より、ちょっと下あたり」
「ここか?」
「おしい。そこもいいんだけど、もうちょっと右かな。あと1cmぐらい。」
「右だな。なら、ここか。」
「あぁ~。気持ちいい。もうちょっと強くかいてちょ。奥の方がかゆいんだ。」
「分かった。これぐらいで、どうだ」
「くぅ~。最高だぁ。」
「ならよかった」
パン!パン!
いきなり、ケントが手を叩いた。
「急にどうした」
「いやぁ。幸せだったから、手を叩きました!」
「これぐらいで、手を叩いていたら、年がら年中、手を叩くことになるな。」
「だな!いやぁ。それにしても、もうちょっとで、届きそうだったんだけど、ギリギリ届かないもんだな」
「まぁ、背中のかゆい所って、届かなくて、もどかしくなるよね」
「あと1㎝、指が長ければ、届くんだけどな。その1㎝が、なかなか難しいんだ」
「分かる気がするな。ワタシたちの幸せも、そういうもんかもしれないな。」
「そういうもんなのか」
ボクは、ソイツの背中を見つめていた。
たぶん
幸せは
ここにもあって。
そこにもあって。
あそこにもある。
見当たらないって
思ってしまう時があるけど
もしかすると
もうちょっと手を伸ばせば
その幸せに
気づくことが出来るのかもしれない。
あと
1㎝だけ
手を伸ばせば
なんだか
触れられそうな気がした。
ボクは、目の前の背中に、手を伸ばした。
パン。パン。
なんとなく叩いてみた。
幸せの音が聴こえた気がした。
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