見出し画像

Jリーグ 観戦記|ボールは空を舞う|2021年J2第5節 栃木 vs 愛媛

 東武宇都宮駅から三駅。僕は西川田の地にいる。雨はその量と勢いを増し、貧弱な折り畳み傘を叩く。風を四方から受けながら、カンセキスタジアムとちぎへと向かった。

画像3

 小さな児童公園。垂れる桜の遥か先に目的地が見える。日常の風景に佇む、興奮の舞台。この瞬間が僕は好きだ。

 蛍光の黄。栃木SCのユニフォームが曇った世界に光を照らす。上空から降り注ぐ雨を避けるかのように、僕は場内を一周した。納車されたばかりの車。そんな言葉が頭に浮かぶ。

画像1

 マックの画面に映るカンセキスタジアムとちぎは輝いて見えた。開場から一年も経っていない。バックスタンドには「とちぎ」と刻まれ、横にはイチゴが添えられている。二〇二二年に開催される「いちご一会とちぎ国体」の舞台。サッカーとは一見不釣り合いな牧歌的風景に日本を感じ、心が和んだ。

 イチゴを目指し、歩みを進めた。何物にも遮られることなく、高くから緑色の芝生が視界に飛び込む。両方の眼を起点とした勾配に、胸の高鳴りも鋭さを増す。この角度を僕は求めていた。

画像2

 ボールは雨を切り裂くように、空を舞い続ける。栃木は最前線に待ち構える矢野へとボールを放つ。スローイン、フリーキック、ゴールキック。そこからせり上がるボール。芝生が無視されたかのような極端なスタイルに、この試合の個性を見出す。

 先制された愛媛は後半から上下動が増える。栃木の背後へ。中盤の隙間へ。その動きがボールをゴールへと近づける。対抗する栃木のディフェンスライン。悔しさを滲ませながら退く前田凌佑の表情が忘れられない。

 矢野は試合の始まりから終わりまで、一貫して自らの色を放ち続けた。その屈強な肉体は地に刺さった杭のように相手を寄せつけず、ボールを我がものとした。守備では猛然とプレスを仕掛け、相手から時間を奪い取る。勝利を確実にする得点も叩き込む。矢野貴章、ここにあり。

栃木 2-1 愛媛

この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方

スポーツ観戦記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?