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Jリーグ 観戦記|エコパでの時|2021年J2第21節 磐田 vs 新潟

 掛川駅へと通じる坂を下りながら、心身が浄化されるような感覚を味わった。雨は上がり、水滴を吸った地面を乾かすかのように太陽が照りつける。

 青い空と太陽の橙は眼の前の世界へと投影される。ジュビロとアルビレックス。サックスブルーとオレンジの衣をまとった人々が辺りに集う。世界中のどこにでもあるだろう。しかし、Jは対戦するチームの色の対比が際立って鮮やかに感じる。気のせいだろうか。絵画のような淡い雲を見上げながら、色彩がこの一日、この瞬間を祝っているような気がした。

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 磐田には遠藤保仁がいる。その事実は僕の脳裏から欠落していた。背負った五十番の番号は遠藤がジュビロの選手であることを象徴的に物語る。国立。横浜。埼玉。多くの場所で彼のプレーを見てきた。時間と距離を超えて、僕たちはエコパで同じ空間を共有している。とても個人的ではある。しかし、その事実に僕は小さな喜びを覚えた。

 右足のインサイドを中心に繰り出されるパス。相手の守備を切り裂くような鋭さや長い距離を一瞬にして制する迫力は薄い。しかし、質の高い文章に刻まれた句読点のように。美しい音色を奏でる音楽のベース音のように。そのパスは時に落ち着きを与え、時に前へと向かう勇気を仲間たちに授ける。

 そして、遠藤はチームの中心にいる。文字通り。チェルシーのジョルジーニョを見ていて同じことを思った。遠藤は座標の中央に位置する。他の選手たちは遠藤の位置を指標としているのではないか。攻守に均衡をもたらす者。そんな考えの数々が頭に沸いては消える。

 八人の選手たちが一列に並ぶ新潟の攻撃。両翼の頂点を目指すパスの交換。そのサッカーはとても積極的だ。しかし、ペナルティエリアへの侵入は阻まれ続けた。攻撃への偏重は自陣に巨大な穴を作った。磐田はその穴にパスを通し、前半で三点を重ねた。配慮が足りないのか。裏へと向かう意識が高いのか。その両方かもしれない。しかし、磐田の戦法が秀でていたかと問われれば、非は新潟の守備にあったような印象が強い。重心を下げ、ディフェンスラインの裏を狙うパスが多用された後半がその事実を表していたように思えてならない。

 ラグビーワールドカップの残像が両方の眼に時折重なった。日本がアイルランドを破った、喝采が轟き続けた時間。あれからもうすぐ二年を迎える。光が空気に漂う水気の粒子を捉える。煙が舞うエコパ。神々しさは最後まで失われることはなかった。日常の場所ではない。しかし、僕は丘の上に立ち、山に包まれたこのスタジアムに親近感を覚える。

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磐田 3-2 新潟

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