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等距離恋愛。_1丁目9番地 あちらこちらな遊具

なんとなく立ち寄った小売店。

そこは文房具から日用品、衣類、それに電化製品まで扱う「何でも屋さん」だった。

小さい頃、地元で一番栄えてる駅前にしかなかったそのお店。電車で1時間かけなきゃいけなかった「何でも屋さん」。

東京にくると家から徒歩20分もかからないでたどり着いてしまう。そこだけじゃないコンビニだって車で15分だったのが徒歩1分で行けちゃうし、スタバだってチェーン店の本当の意味を強く訴えてくるほどある。

「ちょっとあっち側見に行かん?」

ペンコーナーでぼーっと考え事をしていた私の顔を覗く奏太の目は何故か寂しそうに見えた

「うん、行こ!」

そうだ、今は考え事するのはやめよう。目の前にいる彼との時間をめいっぱい楽しもう。

徐ろに店内を見渡す彼。何かいい事でも思いついたかのように時計コーナーの前で立ち止まる。

そして簡易的な鳩時計の穴を真顔で覗く。その姿があまりにも真剣で

「なにしてるの?(笑)」

と質問をなげかける。

「いや、穴の中どうなってるんかって気にならん?なんかすごかった」

彼が時計についている穴を指さして応える。

そう言われると気になるってしまうのが人間の心理で、私は膝を曲げしゃがんでゆっくりと覗き込んだ。

全意識がその1点に集中した瞬間、

「わっ!」

「わああっ」

背後から耳元で声を張られたことに驚いてなんともマヌケな声が漏れてしまった。同時に、バランスを崩してその場にペタンと座るように尻餅をついた。

突然の出来事に思考回路が止まる。

彼の方を振り返ると私の反応に満足したのか楽しそうに笑いながら

「大丈夫?立てる?(笑)」

と手を差し出してきた。

「大丈夫じゃない!ほんとにびっくりして腰抜けたじゃん!」

少し怒った口調で言い返したのにそんなこと気にも止めずに

「ほら、立って。まだ一緒に行きたい場所たくさんあるんだから。」

と、腕をぐいとひっぱられた。華奢な身体からは想像がつかないくらい力強く、袖から見えた腕の筋にどきっとした。

そんなことで許してしまう自分は単純だ。

お店では何を買うわけでもなく、ただグルグル商品を眺めているだけだったのにわくわくして楽しかった。

彼はすごい、何でもない売り物を魔法のように遊び道具にしてしまう。慣れ親しんだ場所をテーマパークにしてしまうのだから。

小売店を出てから、せっかくだから少し散歩しようということになり目的地も決めずにふらふら歩いた。

相変わらず、風が冷たい。でも今の私にはそれがありがたかった。すぐ赤くなってしまう顔を冷ますのにはちょうどいい風だ。

「寒くない?マフラー貸そうか?」

歩いてる途中、吐く息が白くなる程の寒さに彼は気を遣って聞いてくれた。優しいんだか、意地悪なんだか分かんない。

「ううん、大丈夫だよ。私より奏汰君の方が細くて寒そうだもん(笑)」

冗談交じりに言うと、

「そんなにがりがりじゃないからね。脱いだらすごいから。」

なんて少し照れた顔を見せたあと、怒った口調で呟いた。

「なんで少し、照れたの?」

「......今日はじめて、名前呼んでくれたから。」

顔を埋める彼に今までの仕返しとして

「奏太くん!奏太くん!そなたくーん!」

と名前を連呼してやった。

それに驚いた顔をした後に顔をマフラーにうずめる彼。

耳まで真っ赤だ。

それを見てたらなんだかこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。

無言で隣を歩く。歩幅は自然とあう。

若い人から大人までたくさんの人とすれ違う。それぞれ思い想いの気持ちを抱いて楽しんでいるこの街が好き。

でも今はそんなことを考えてる余裕が無いほど隣にいる1人の男の子に夢中な自分に気づく。

暫く続いた無言の空間を壊したのは彼だった。

「あの、さ。まだ時間あるなら、どっか珈琲飲みに行かん?いいかんじのところ知ってたら教えて。」

「うん、知ってる。チーズケーキが美味しい、老夫婦がやってる喫茶店。」

「いいね、そこ行こっか。」

少しの微熱と、街の雑踏の中で私たちは反対口にある喫茶店にむかった。

_冷めきった珈琲

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