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ドイツの婚活サイトに潜入し、国際結婚した話⑧


■第8章■ 決戦

「日本に帰ったのにどうしてまだドイツのマッチングアプリを続けてるの?」

盲点を突かれないか内心ハラハラしていたが、彼はその事について何も疑問を抱いていなかった。まさかまだ1度もドイツへ行ったこともないのに、野望を掲げ、日本からこのマッチングアプリに登録しているとは夢にも思っていなかっただろう。

やりとりを始めてすぐに彼の32歳の誕生日が発覚した。
この微妙な関係性での誕生日をどのように祝うのが最適か悩んでいたところ、自己紹介文の翻訳でもお世話になった同僚が、自宅庭から摘んだピンクの可愛らしい花を持ってきてくれて
「これと一緒に満面な笑顔の写真を送ったらどう?」と提案してくれた。



そしてこれを機にサイト内のみで行われていたメッセージは、写真添付のEメールへと進展していった。

彼の誕生日から5日後が私の33歳の誕生日だった。彼は写真のお礼も兼ねて、私の名前が入ったチョコブラウニーを焼き 、その写真を撮って送ってくれた。

他にも数名のドイツ人男性とやりとりしていたが、翻訳に思った以上に時間がかかってしまい、複数の人との同時進行が難しくなっていた。そろそろ相手を絞るべきだと思い始めたが、決断するのに悩む必要はなかった。1人だけメールのやりとりに何とも言えない心地よさを感じていた。
そう、ベルリン在住の彼だ。   
ことあるごとに使われていた彼の " もしよかったら( If you like ) " という言葉が、他の男性たちよりも配慮深さを感じたことや、文章の内容と表現から伝わる物腰の柔らかさ、そしてチョコブラウニーが決め手だった。

これを機にメールは長文になっていく。
内容も1ヵ月しか経っていないとは思えないほど濃密なやり取りが続き、私はいてもたってもいられず、自分の考えや価値観、そしてこのマッチングアプリに登録した経緯など、この物語の全てを詰め込んだ内容を、博士号を取得したばかりの彼に 「 論文 」という題名で、これまで以上に長いメールを送りつけた。
私の代名詞でもあるこの情熱に対し、彼がどのような反応をするのか、これまで通り、それを元に見極める必要があった。

彼からの返信はいつもより遅かった。
やっぱりドン引きしたかな。もう少し時間をかけてから送れば良かったかも。やらかした~と後悔し始めた矢先のことだった。
メールを開いた途端、私が送ったものよりはるかに長い文章が目に飛び込んできた。
読まずとも彼が私の「論文」に対し、真剣に向き合ってくれたことがわかり歓喜した。
何度も繰り返し論文を読んでいたから返信が遅くなったと詫びる文から始まりそして、
「綴られた言葉はすべて正直で誠実で、これまでの人生でこんなにも純粋な手紙を貰ったことはない、最大の敬意を表し感謝します」と書かれていた。

この頃にはもう直接会っても何かの事件に巻き込まれることは無いと判断していた。
念には念をと住所を確認する目的で始めた文通も思いのほか、2人の絆を深め、私が渡独するまで続いた。





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