深山の孤家(みやまのひとつや)
上の洞(かみのほら)と呼ばれたその場所には、婦人(おんな)と幼児のような男と親仁(おやじ)が住んでいる。
婦人は今だ瑞々(みずみず)しく肉付きがよく匂いたつような姿をしている。
幼児のような男は、どうにも不釣り合いであるが婦人の亭主のよう。出臍(でべそ)で、その臍の緒(へそのお)のような、紐状のような、だらんと垂れた腕でヘソばかり弄(いじ)っている。退行し胎児に戻ったようなその眼差しは宙を見ているようで定まらない。
親仁(おやじ)は言う。
「13年前に滝のような大雨が八日続き