おぐらゆきお

文筆家。 いまだ三文文士だが今に見ていろと唯一人夢想。 生まれが小倉で、同音名の大作家…

おぐらゆきお

文筆家。 いまだ三文文士だが今に見ていろと唯一人夢想。 生まれが小倉で、同音名の大作家に感化されているから、というペンネームです。 ソーシャルメディアではこの名で通してます。 読みやすくて趣のある文章を綴りたい。

最近の記事

ヘッセとビートルズ(なんか知らんけど)

ドイツの抒情詩人・小説家。「詩人になるか、でなければ、何にもなりたくない」と脱走、職を転々の後、書店員。46年ノーベル文学賞。人生なんかわからん系。凄い、 ビートルズは、ジョンというカリスマにポールという天才が出会って出来上がった稀代のバンドやん。 両者は関連全くない?

    • ヘミングウェイを原文で読んでみたい

      ワタルが帰ってきている。 俺が出張先の札幌から2日ぶりに家に帰ってくると家の様子が違っていた。 長男のワタルが留学先のアメリカのニューヨーク州から帰ってきていた。特大のキャリーケースが二つもリビング横の和室に広げられている。普段俺がそこで寝ているのに妻は敢えてその場所を解放したのだろう。 「あぁ、ごめん。すぐ片付けるよ」 旅疲れの顔に一層疲労感を現した俺を見てワタルが言った。 コイツは本当によくできた息子だ。ものの道理を判っている。うちの会社の若い社員よりよっぽどしっかり

      • バスとの因縁物語(3話)

        そのバスに乗る人々も自由だ。人と人の距離も近い。物理的な距離ではなく、何だか馴れ馴れしいのだ。 僕は時期によってバスに乗る座席の位置が変わっていた。(ある時期は乗車口のすぐ近くの二人席。ある時期は一番前の運転手さん側でない方。ある時期は一番後ろから2番目の二人席。)大柄な僕は比較的足元が広くて景色が見やすい位置を好んだ。が、それはみんな同じだろうね。 高校一年の春うららかな日。試験期間中、半ドンで帰宅途中のバス。 ガラガラの車内で僕は一番後ろの席に座る、とカーデガンみた

        • バスとの因縁物語(2話)

          バスの運行ルートも誰が考えたのだろうか、というくらいに迷路のように入り込んでいた。走行距離はやたら長く時間もかかるのだが、点と点を結んだ距離自体は驚くほど短い。幹線道路から裏道に入り、地域の人たちを根こそぎ乗せられるくらいぐるぐる回り、また幹線道路に出て主要駅まで運ぶ。 僕が乗る最寄りのバス停は中心地からはだいぶ離れていたので終点でいいと思うのだが、何のサービスか知らないが、その先のもっと僻地(へきち)まで運行する。貸切バスで遠足にいく芋掘りセンターみたいなところにまで至っ

        ヘッセとビートルズ(なんか知らんけど)

          バスとの因縁物語(1話)

          僕が育ったところは、日本の端の方。その街の中心地からまた外れであった。 家の近くに鉄道はないとは言わないが、家から自動車で10分くらい行くと線路が1本。単線である。それが何線という名であるのか大人になるまで知らず、つまりは利用する必要性は一度もなかったのであった。ということで未成年者の移動手段は徒歩か自転車、それかバスだった。 僕の暮らしていた地域には、乗っていても側(はた)で見ていても話題の多いバス会社の独壇場であった。 いろいろ時効であろう。バスにまつわる話を幾つかしよ

          バスとの因縁物語(1話)

          少年期、父の想い出

          魚を食べると、焼きであれ煮付けであれ、父を思い出す。家で晩酌の雰囲気を味わい、酒の肴で誰も聞いていない息子の自慢話を一人吐きつつ、魚を本当に綺麗に食べ尽くす父を、、 俺も息子だ!負けずに食い尽くすゾ‼️ ただ俺は肉(焼鳥)好きだけど、、、(笑)

          少年期、父の想い出

          生きていればこそ

          いつのまにか童心を忘れ、現実を突きつけられている。 歳をとるにつれ、先が見えた気がしてくる。 何故だろう、朝から憂鬱で惨めな気持ちになっている。 楽しくない。先の楽しみがないのか、昨日記憶が無くなるほど呑んだからか、昨日やろうとした仕事が出来きず思い通りにならなかったからか、明日からの仕事にうんざりしているからなのか、風邪をうつされ喉が痛くなりそうだからか?お金を使えない気持ちに苛(さいな)まれているのか? 昼過ぎからおでんを買って迎え酒して、風呂溜めてリラックスに努めて

          生きていればこそ

          朝、通学電車での邂逅

          彼は幼馴染。 ガキ大将の面影を残し、大きくなった身体は座席で窮屈に囚われの身のよう。 くたびれたネックウォーマーはクタクタでツルツルで窮屈な制服の上を巻き、パンパンに張った太もも足下に部活で使っていた大きなエナメルバッグをその両脚ではさみ、前屈みに両の膝に両の肘をのせ、短い袖から出たゴツゴツした手にあるのは、本。 その大きな手に包まれた文庫本が小さい。 彼が本を読んでいる。その図は視界の隅に入っていたが意外なことで認識されなかった。が、僕が彼を忘れるはずもない。 小学生時

          朝、通学電車での邂逅

          朝、黄丹色というより生成色

          未だ夜のよう。日が出る前の凍える朝。澄み切った空気は凛と張り、満月がさほど高くない位置で煌々と夜を残す。 朝刊を取りに郵便受けへ向かう僕はその月を見る。 また朝が来た。 昨日使い古した頭はすっきりとクリアになり、空白の頭は肢体に活力を呼び起こす。 これから起きんとする大地も「シーン」という音を響かせ、漆黒の空の麓(ふもと)に朝日を隠す。 遠くでホルンがそろりそろりと鳴り出すよう。マーラーの第9番が始まるぞ。 さあ、急ごう。 いつもの犬の散歩のおじさんがもう角を曲がっている。

          朝、黄丹色というより生成色

          深山の孤家(みやまのひとつや) いわれ

          その婦人(おんな)と亭主が住むところからしばらく下り蛇の胴のような丸太を渡ると、洞窟のワレメの奥に穴があり、その岩場に玉を解いて流したような水が流れこんでいる。手にとれば羊水のように少し温かく感じるその水は生き物の傷や疲れを癒やし、若返らせる力がある。老いた体を生まれたところまで戻す。 炎熱の「海坂」を超えてきた者は水を欲する。蛭の死骸と泥にまみれた身体と喉を潤さずにはいられない。そこで婦人はその洞窟の水場へ案内することになる。 女はそこで衣を脱ぎ肉付きのいい裸体となり湯浴

          深山の孤家(みやまのひとつや) いわれ

          深山の孤家(みやまのひとつや)

          上の洞(かみのほら)と呼ばれたその場所には、婦人(おんな)と幼児のような男と親仁(おやじ)が住んでいる。 婦人は今だ瑞々(みずみず)しく肉付きがよく匂いたつような姿をしている。 幼児のような男は、どうにも不釣り合いであるが婦人の亭主のよう。出臍(でべそ)で、その臍の緒(へそのお)のような、紐状のような、だらんと垂れた腕でヘソばかり弄(いじ)っている。退行し胎児に戻ったようなその眼差しは宙を見ているようで定まらない。 親仁(おやじ)は言う。 「13年前に滝のような大雨が八日続き

          深山の孤家(みやまのひとつや)

          1984年夏、小倉にて (続き)

          その時、電車の停留所に向かう僕を自転車がさっと追い越した。 颯爽とその人は僕の視界に入ってきた。 一足先に停留所についたその自転車を降りて、真っ白な綿のTシャツの袖の奥に見える白く絹のようにしっとりとした二の腕を僕は眩(まぶ)しく見た。その女の人は時刻表を見ているようだった。 僕から見れば、その人は大人びて見えたが実際は二十歳前くらいか。ぴったりとしたジーンズを履いていたのかもしれない、太ももからふくらはぎまで脚の曲線がわかった。 僕が遅れて停留所に着くと、その人は自転車に跨

          1984年夏、小倉にて (続き)

          1984年夏、小倉にて

          父は何気なく軽い気持ちで言ったのだろう。それを僕も軽い気持ちで、なかば小旅行気分で行ってしまった。何とも世事に疎い家族であった。 夏休み、父の実家へ、僕は一人で法事に行った。 その街に降り立ち、僕は美しい不思議な女の人を見ることになる。 その人を僕はその後の人生で何度も見かけることになる。 何年にもわたり偶然見かける人が全て同一人物であることなど有り得ないことだけど、僕には全て同じ人に思えてならない。 電車を降り、うだるような暑さにさらされながら、一人でこの街に来るのは

          1984年夏、小倉にて

          『彼女はバーチャルアイドル』 10.彼女と付き合ってます

          生物と言うものは種の保存を本能的に行っている。人間ならば子供を作り子供を育て子供が巣立っていくまではがその役目であろうか。その後、男は男性ホルモン、女性は女性ホルモンがあたかも悪戯をしているかのように人を別物に取り変えてしまう。人格までも別人かと思うほど変わってしまう人もいる。その結果出来上がったのが今の妻と僕だ。 そして彼女もホルモンの作用によって作られたと言ったら話が飛び過ぎているだろうか? 男女関係の充実感はやっぱりお金では買えるもんじゃないのか?それで心が満たされた

          『彼女はバーチャルアイドル』 10.彼女と付き合ってます

          『彼女はバーチャルアイドル』 9.カフェにて...続き

          そのうち美穂は本題を切り出した。 美穂は自分のスマホで香織が勤める風俗店のホームページにある”かおりん”のページ、お客さんに対する「お礼日記」なるものを香織に見せる。サッと香織の顔から血の気が引く。 「すごいね美穂ちゃん、どうしてわかるの?顔出してないのに、、念力あるの?」 「双子だからかな?あたりでしょ?これあんたでしょ?、、というか、今何でこんなことやってるの?あんた男の経験なかったんでしょ?もう小説書かないの?」 「こういう事、若い今しか出来ないと思ってたの、、でも

          『彼女はバーチャルアイドル』 9.カフェにて...続き

          『彼女はバーチャルアイドル』 9.カフェにて

          真っ白なブラウスに薄い青竹色の地に蔓に真紅の花をつけた柄のロングスカート。 ブラウスの下に着ているキャミソールがくっきりと透けている。 黒茶のカーデガンを羽織り、足早にあの子が現れたとき、その場がパッと華やいだ。カフェの店先にあの子が立っている。別段派手な出で立ちではないが衆目を集める。 明るい表情には自信が満ち溢れている。そのことがこの子を何倍にも輝かせ人の目を惹きつける。 これはオヤジが悦ぶわ、普通にかわいい。こんな無垢でいたいけな娘が事もあろうかその場しのぎの男ども(大

          『彼女はバーチャルアイドル』 9.カフェにて