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バスとの因縁物語(3話)

そのバスに乗る人々も自由だ。人と人の距離も近い。物理的な距離ではなく、何だか馴れ馴れしいのだ。

僕は時期によってバスに乗る座席の位置が変わっていた。(ある時期は乗車口のすぐ近くの二人席。ある時期は一番前の運転手さん側でない方。ある時期は一番後ろから2番目の二人席。)大柄な僕は比較的足元が広くて景色が見やすい位置を好んだ。が、それはみんな同じだろうね。

高校一年の春うららかな日。試験期間中、半ドンで帰宅途中のバス。

ガラガラの車内で僕は一番後ろの席に座る、とカーデガンみたいなものが、長いシートの僕のすぐ横に投げつけられた。その時思わず僕は「チッ」と舌打ちをしながら眼をあげたその瞬間、いかにも悪そうな、いかにもヤンキーといった二人組のひとりが「なんだ!文句あるのかっ!」とすごい勢いで僕に迫り、学生服の胸ぐらをを掴んできた。

「ちっ!しまった」と思ったが後の祭り、二人は僕をシートの奥へ押し込み、肩を組んできた。「おまえ、したうちしたろ!もんくあるんか?」「おまえいくつや?高校生やろ?おれら19ゼ」矢継ぎ早に。

もう一人の方は窓を少し開け、タバコを吸っている。「タチの悪い奴らに関わってしまった。バスでタバコか!」と思ったが逆らわずに質問に応えていった。

そのうちそのチンピラは僕の肩に腕を回したまま、タバコは持っていないかとか、共通の知り合いがいないかとか、自分の話をしだしたりするので、うんうん、と聞いていると、段々親しげになってきた。

いよいよ彼らが降りる段には、「まぁ、いろいろあるけど、がんばれ。またあえたらいいな」とか言いながら去って行った。

ふと外を見ると、僕に手を振りながら、「またな〜!」と叫んでいる始末。「なんだあいつらは?」

一部始終を傍目で見ていた年上の女子高生が、僕をみて半笑いしている始末。


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