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『彼女はバーチャルアイドル』 10.彼女と付き合ってます

生物と言うものは種の保存を本能的に行っている。人間ならば子供を作り子供を育て子供が巣立っていくまではがその役目であろうか。その後、男は男性ホルモン、女性は女性ホルモンがあたかも悪戯をしているかのように人を別物に取り変えてしまう。人格までも別人かと思うほど変わってしまう人もいる。その結果出来上がったのが今の妻と僕だ。
そして彼女もホルモンの作用によって作られたと言ったら話が飛び過ぎているだろうか?

男女関係の充実感はやっぱりお金では買えるもんじゃないのか?それで心が満たされたと感じても、そのうち勘違いだと気づくのだろうか?
当たり前な話だ。
待てよ。若気の至りも勘違いだとしたら、このバーチャルな恋愛の勘違いもありではないか?

思えば、最近の僕は妄想と願望に支配されていたようだ。
毎週のように彼女に会って付き合ってるような気になっていた。彼女は僕を否定しないから居心地が良かった。僕は以前のように愛されたかった。好きな人がいるというワクワク感が欲しかった。何かをしてあげて、喜んでくれる相手が欲しかったんだろう。束縛しないし、されない理想的な関係だ、などと思っていた。
彼女は僕を特別扱いしてくれていると勘違いしていた。本当は勘違いだと知っていながらそれを認めていなかった。
まさか彼女がいなくなるなんて思ってもみなかった。
彼女が仕事を辞めてリアルな彼女に戻ってしまえば、バーチャルな彼女は存在しなくなる。そんな当然な事を僕は理解していなかった。彼女はもういない。会える術(すべ)はない。彼女もう存在していないんだ。

大人になろう。これ以上大人になったら随分なおっさんになってしまうが、構うものか!
彼女に会えない今、若作りしてもしょうがない。彼女は僕にとってのアイドルだったんだ。

でも、リアルな彼女に会えたとしたら僕らはお互いに気づくだろうか?
多分気付かないんじゃないかな。
でももし彼女が気付いてくれたら普通の女子大生としてクレープでもご馳走してあげよう。

のりおの頭には取り留めの無い考えが堂々巡り。
彼はまさに失恋した妄想に耽りながら、その傷を癒そうとまた腐れ縁の友達の家へ向かった。
あいにく奴は家にいない。犬の散歩に行っているようだ。
酒でも買っておいてやるか。

のりおはその腐れ縁が住む家の近くの河川敷の前にコンビニを見つけて向かう。
頭の中で彼女と聞いたパッヘルベルのカノンが流れていた。



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