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ショートショート・短編

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さらっと読めて、ちょっと考えちゃうようなショートショートが書けたら良いなと思って書いてます。
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#毎週ショートショートnote

【毎週ショートショートnote】放課後ランプ

【毎週ショートショートnote】放課後ランプ

(410文字)

毎日、決まったルートを配達していると、時間が過ぎるのが早い。
足立区の営業所を出て新宿、渋谷。遅延しないように車内で昼食を摂りながら運転し、配達を終える頃には陽が傾いている。
首都高で営業所に急ぐがいつも渋滞。
1日があっという間だ。子供の頃の1日はあんなに長く感じたのに。
「京橋ランプは渋滞中、お急ぎの方は放課後ランプへ」
ラジオから聞き慣れない言葉。放課後ランプ?
すると目の

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【#毎週ショートショートnote】命乞いする蜘蛛

【#毎週ショートショートnote】命乞いする蜘蛛

(410文字)

「待て!殺さないでくれ」
そう念じると、私を潰そうとしていた人間の大きな手が止まった。人間は不思議そうな目で私を見ている。
「私たち蜘蛛がいるおかげで、この家に虫が少ないのが分からないのか?」
私を生かすメリットを念じてみたが、人間は「まさか命乞いする蜘蛛なんているわけないな」と言って私を潰した。あの冷ややかな目は忘れない。奴らにとって虫の命など取るに足らないものだ。私を殺したこ

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【#毎週ショートショートnote】ツノがある東館

【#毎週ショートショートnote】ツノがある東館

お題:ツノがある東館 & 一行目で惹きつける
文字数:410文字

「あなたは人生の岐路に立たされている」
分かれ道の看板にはそう書かれていた。
片方の道の先を見るとツノがある東館が見える。
もう片方の道の先には輪っかのある西館が見える。
どちらを選ぶべきか。
ここは素直に西館か?いや、罠かもしれない。
だからといって東館に行く奴がいるか?
私は元来自分に甘い性格で、それが元で失敗することも多い。

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【#毎日ショートショートnote】アメリカ製保健室

【#毎日ショートショートnote】アメリカ製保健室

お題:アメリカ製保健室 さらにどんでん返し
文字数:410文字

アメリカ製保健室が校庭の隅に設置された。
保健室登校の児童の、校舎から離れた場所の方が安心するという意見でこの場所に設置されたそうだ。
保健室登校児童の増加に対応して「室」と呼ぶには大きく、3階建てで、雑居ビルほどの大きさがあり、災害を想定して堅牢な建物になっている。
保健室登校の児童からも好評だった。アメリカ製のゲームなどを楽しみ

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【#毎週ショートショートnote】ドローンの課長

【#毎週ショートショートnote】ドローンの課長

お題:ドローンの課長
文字数:410文字

「角田君、最近頑張ってるね」
パソコンに向かって企画書を作っていると、ドローンの課長が後ろから声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
振り向くと微かにプロペラ音を発する課長がふわふわと浮いている。
課長がドローン化してから、もう半年以上が過ぎた。

コロナ禍でのリモートワークが終了した日、課長は出社を拒否した。
「それでも私の営業一課の成績は上げて

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【#毎週ショートショートnote】夜光おみくじ

【#毎週ショートショートnote】夜光おみくじ

お題:夜光おみくじ
文字数:410文字

彼は悩んでいた。彼女に告白するべきか。
小学生の頃から高校生になった今までずっと恋心を抱いている。
毎年、初詣のおみくじに良いことが書いてあれば告白しようと思っているが、はっきりしない答えが続いている。
今年の恋愛運は「待ち人来らず」。
この状況にどういう意味?

彼は今日も仲間達と夜遊びをしていた。
ゲームセンターで遊んでから、ファミレスのドリンクバーで

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【毎週ショートショートnote】カフェ4分33秒

【毎週ショートショートnote】カフェ4分33秒

(417文字)
お題:カフェ4分33秒

時計台の鐘の音がまだ耳の奥に響いている。
気がつくとカフェの前にいた。
「カフェ4分33秒」と書かれたプレートが下がっている。
男は扉を開けて店内に足を踏み入れ、店員に案内された席に腰を下ろす。
店内は静かでBGMは流れていない。
客は全てひとりずつで、目を瞑って涙を流している人、微笑みを浮かべている人と様々だ。カップの音や、スプーンで砂糖を混ぜる音が静か

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【毎週ショートショートnote】告白水平線

【毎週ショートショートnote】告白水平線

「告白水平線?」
「その水平線に向かって叫ぶと、告白が形になるんだって」
学食で上田が噂話を始めた。
「形って?」
「そりゃ、上手くいくって事だろ?そこでユカちゃんに告白したらどうだ?」
ユカはサークルの仲間で、2人で飲みに行く事も良くある。
「付き合ってるの?」と聞かれると、ユカは「ないない」と言うが、俺は満更じゃないと思ってる。
俺はユカをドライブに誘った。
「珍しいね、ドライブなんて」と言い

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【毎週ショートショートnote】塩人祭りの夜

【毎週ショートショートnote】塩人祭りの夜

旧暦の8月3日の夜、塩人祭りは行われる。
塩人は39歳の男の中から選ばれ、海辺の祠にこもり、お清めを受ける。
陽が沈むと、塩人は白い衣装を身に纏い、松明を手にした女たちに先導され、情緒ある篠笛の音を従え、塩を撒きながら練り歩く。
最後は浜に辿り着き、道を示すように並べられた松明の炎に従い、明け方の海に帰っていく。
その姿が神秘的で、インスタ映えすると、日本全国から若者も集まる祭りとなった。
地元の

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【毎週ショートショートnote】半分ろうそく

【毎週ショートショートnote】半分ろうそく

あれは38歳の時。
気がつくと私は真っ暗な部屋にいた。
部屋にはろうそくの火が灯っていた。
そこには私の名前が書いてあり、その太さから、半分くらいまで燃えたところのように見えた。
じっとそうそくの炎を見ていると、今までの人生が思い浮かんでくる。
私はたくさんの人を欺いてきた。
この世の中は奪い合いだ。奪われる方が悪い。
しかし、ろうそくの炎を見つめていると、どうにもならないほど強い後悔の気持ちが溢

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【毎週ショートショートnote】伝説の安心感

【毎週ショートショートnote】伝説の安心感

「わかりました。これなら安心だね。御社にお願いすることにするよ」
クライアントの安心し切った表情に、私と部長は「ありがとうございます!」と声を張りながら深々と頭を下げた。
その横で、今回のプレゼンを担当した木村さんも遅れて軽く頭を下げる。
ビルを出ると「それじゃ、私はこれで」と言って木村さんは直帰した。
駅までの道のりで、私は3ヶ月かけて練り上げたプレゼンが通った興奮が冷めない。
「部長が急にプレ

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【毎週ショートショートnote】グリム童話ATM

【毎週ショートショートnote】グリム童話ATM

「残高が不足しています」
グリム童話ATMが無情にも言い放つ。
赤ずきんがガックリと肩を落とす。
「私もだわ。これじゃSnow Manのライブに行けない!」
シンデレラが通帳を投げ捨てる。
グリム童話ATMには、世界中の子供達に楽しまれた分だけ、童話のキャラクターに給料が振り込まれる。
昔は人気者だったふたり。ホストクラブでブイブイ言わせてた頃が夢のようだ。
今や世界中の人気はラプンツェルに集まっ

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【毎週ショートショートnote】ポケット大増殖

【毎週ショートショートnote】ポケット大増殖

封筒に入ったポケットが届いた。
添えられたメモにはこう書かれていた。

これは不満を捨てるポケットです。
ポケットの中に不満を言えば、あなたの不満がなくなります。

本当だろうか。
僕は試しに上司に対しての不満を言ってみた。
「いつも嫌味ばかり言うな!」
すると不思議なことに胸がスッとして、そんな不満なんてなかったような気持ちになった。
さらに不思議なことに、手のひらの上のポケットが2つになってい

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