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【毎週ショートショートnote】塩人祭りの夜

旧暦の8月3日の夜、塩人祭りは行われる。
塩人は39歳の男の中から選ばれ、海辺の祠にこもり、お清めを受ける。
陽が沈むと、塩人は白い衣装を身に纏い、松明を手にした女たちに先導され、情緒ある篠笛の音を従え、塩を撒きながら練り歩く。
最後は浜に辿り着き、道を示すように並べられた松明の炎に従い、明け方の海に帰っていく。
その姿が神秘的で、インスタ映えすると、日本全国から若者も集まる祭りとなった。
地元の人は言う。
「塩人は江戸時代までは本当にいて、海から現れたらしい。その年は大漁に豊作。それでこの祭りが始まったんだ」
しかし本当は違う。
50年前、町おこしをしたいと思った町長と、民俗学を学んでいた私たち学生が、半分遊び感覚で作った祭りだ。
今ではその話は忘れられ、江戸時代から続く祭りだと信じられている。
それで良い。
形が出来上がると、その始まりは忘れられ、本質は変化する。
各地の祭りの始まりも、案外そんなことかもしれない。

(410文字)

たらはかにさんの企画に参加させていただきました。

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