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序・フォリア工房のムラ染系の仕事について

当工房の定番とする加工に「ムラ染加工」があります。

高度な日本の伝統染色の分野では、ムラ系の加工技術もいろいろなものがあります。

そんななかで、当工房が取り組んでいるのは以下のような技法です。かといって、一般的な仕上がりにはせず、そこは「フォリア流」に行います。

技法的にはだいたい

1)ロウを使ったムラ染加工
2)染料や顔料を使った刷毛や筆でのムラ染加工
3)絞り染によるムラ染加工
4)墨や顔料で染めてから洗い流すムラ染加工
5)糊・ロウ・染料・顔料・薬品の飛沫染(しぶきぞめ)によるムラ染加工

の5種がメインです。

上記の技法を組み合わせたりもします。

(今後、技法は増えるかも知れません・・・)

地色の部分だけでなく、文様の部分に使う事も多々あります。

以前、当工房の看板作風である(1)の「ロウムラ加工」について「当工房が考えるムラ染の意味」の詳細を書きましたが

当工房での「ムラ染」は「ムラ染の技法が売り」という事ではなく

「生地の質感を可視化する」
「使う染材(染料・顔料・ロウ・糊)の特徴を生地に乗せる」

という意図を実現するためのものです。

根源的な意味としては、現代、手染めする意味のひとつ・・・機械製作では出来ない深度の「生地の生命感と、その危うい魅力を表出させるため」です。

その、ムラ染によって表出する・・・ある意味ノイズとも言えるもの・・・それをフォリアでは「生き物が生きているゆえに発する音のようなもの」として表現に取り入れております。生き物の心臓の鼓動、呼吸の音・・・のようなものです。

そのような、布や染料、その他素材の生命が立てる「麗しきノイズ」が、実用時に(和装なら着用時)とても重要だと考えているのです。

着物=全面ロウムラ加工+蒔糊加工 帯=地色部分に全面ロウムラ加工

その「麗しきノイズ」は、ただ布自体の魅力の増幅に収まらず、和装では

「着る人を美しく見せる」
「取り合わせの幅が広がる」
(和装なら着物、帯、羽織、その他小物の取り合わせがしやすくなる)

という効果があります。

上の写真は、着物も帯も両方ムラ染系の加工がしてあるもので、大変良い取り合わせとなっております。この組み合わせでは、着物と帯にムラ加工があるため、帯揚げと帯締めのシャキ!とした質感が強調され、着ている方の肌とも良く響き合っています。写真=きもの睦月さんより

ノイズがある方が、取り合わせの幅が広がる?なにそれ?と不思議に思われるかも知れませんが、磁器の器で説明してみます・・・

非常に均質な、真っ白でのっぺりとした磁器の器にお刺身を乗せると、なんだか鮮度が悪そうに感じますし、美味しそうに見えません。磁器が冷たくキレイ過ぎるので、お刺身・生魚の生々しさが悪い方向に振れてしまうからです。「生魚は生命のノイズが強い」からです。しかし、洋菓子の乾き物系では清潔感のある取り合わせになると思います。

しかし、少し濁りのある白い磁器・・・例えば真っ白ではなく、オイスターホワイトぐらいの色味で、さらに僅かにキズやシミがあるような素材感のある・・・昔のものや、作家ものの磁器にお刺身を乗せると、お刺身は瑞々しく美味しそうに見えます。それは、磁器の器の方にノイズがあるので、生魚の力強さ・ノイズは程よく抑えられ、かつ生魚が持つ生もののノイズと共鳴を起こし、増幅したからです。もちろん、そのような磁器は他のいろいろな料理でも美味しそうに見えます。取り合わせ出来るものの幅が広いのです。

・・・そういう感覚です。

昔の布の良品は、生地自体が持つ素材感が豊かで、自然に麗しいノイズが布に乗っていました。ですので、他のものと取り合わせると「美的増幅」が起こります。骨董品店で、風合いの良い昔の布を購入し、その上に例えば壺を飾ったとすると、壺を単体で飾るよりも良く見える事があります。そういう「増幅」が起こるのです。

しかし、現代のものは、そのような素材感が希薄になっているところがあります。

それを、現代の手法、捉え方、感覚で、昔には普通にあった布の魅力を取り戻す・・・そんな意識で制作しております。

もちろん、ただ昔と同じ物を再現して現代生活の場に置いても感覚的にはズレたものになってしまいますから、現代日本ならではの感覚に落とし込んで行きます。

それと、当工房では、一般的な呉服系ムラ染加工よりも、布単体で観たときには、時に荒々しいと感じるぐらいの風合いをつける事が多いです。

それは

1)布単体では繊細で良いニュアンスに見えても、仕立をし、実用するとムラの感じが弱く感じられるため
2)手作りならではの「危うい美しさ」を狙うため
3)制作者として「素材好きの日本人」へ現代的回答を示すため

という理由からです。

また、織物の風合いとは違う「後染めの魅力」を意識しているからです。

・後染め=布を染める事。いわゆる染め物の事
・先染め=糸を染める事。織物における染

例えば、日本の魅力的な陶器・・・備前や信楽などの焼締め系の陶器の風合いを布に乗せて、現代和装に取り入れたいと考えるのです。

ですので、今までの呉服の業界ではシミや傷に見えるようなものでも、あえて焼締め系陶器の見どころの偶発的な部分として・・・「小石の爆ぜ」「灰釉の流れ」「微妙な歪み」「色の偶然の変化」のようなものと考え、大胆に取り入れて行きます。

例えば、通常はツルリとした風合いの白大島系の生地を染めるとスレやオレなどの傷が付きやすいので、あまりしないのですが、生地をグシャグシャに絞り、何度もムラ染加工をする事により「あえて細かい折れ目を沢山つけた加工」をします。洋服系で一時流行った「シュリンク加工」のような感じにしてしまうのです。

そこまでやると「素材の新しい魅力が表出し、かつ現代人にも似合うものが出来上がる」のです。そして、その魅力は、例えば古典文様の西陣織の帯とも良く響き合い、現代人の波長に合います。

当然、このようなタイプの作風は、好き嫌いがハッキリしますので傷やシミが気になる方には、当工房の「ムラ加工系」はオススメしませんが・・・しかし、最初は戸惑った方でも実際にご自身がお召になると「あれ?良く自分に似合うし、使い勝手がすごく良い・・SNSで振り返ると無意識に回数多く着ているな・・・」となる方が多いです。

・・・いろいろと書きましたが、そういった考えで、当工房はムラ染加工をしております。

それでは、次の投稿から、連続で、それぞれのムラ加工の特徴を説明して行きたいと思います。

ちょっと長い記事ですが「フォリアのロウムラ加工について」をご一読いただいてからこの関連の記事をお読みいただくと、よりご理解いただけるかと思います。(長いですが!)

よろしくお願いいたします。m(_ _)m

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*ヘッダー写真は「紬の全面ロウムラ着物+ムラ雲絞りの八掛」です。

以下は関連記事です。😊

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