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ナチス党首ヒトラーに敵意された音楽家、ヒンデミットを聴こう のための日 #21

 今日にぴったりな、今日の音楽を紹介

パウル・ヒンデミット(1895–1963) /   交響曲『画家マティス』

1921年の今日はヒトラーがナチス党首に就任した日である。当時、第一次世界大戦で大敗したドイツは、経済的にも精神的にもとても疲弊していた。そしてこの戦争で得をしたのは裕福なユダヤ人であるという噂がドイツ中に広まっていったのだ。その考えを焚きつけたのがナチスである。歴史上で宗教的な争いが絶えず起こってきたヨーロッパでは、このときユダヤ人たちが絶好のターゲットとなってしまった。いまでは考えようもないような残虐な事態が、それが熱狂するような社会が、ちょうど100年前くらいに存在した(!)


ナチス党首ヒトラーに敵意されたドイツ音楽家、ヒンデミットを聴こう

『ヒンデミット事件』1934年に起こった政治的排斥事件である。音楽家のなかで自分の名がついた事件が起こったのは彼くらいだろう。
ヒンデミットは、第一次世界後から活躍した20世紀を代表するドイツ音楽家である。それまでの表現主義時代から一気に作風を変えていき、その才能は多くの音楽家たちにも認められていた。しかしその頃ドイツのトップに君臨していたのは、あのヒトラーだった。たびたび政治的観点を取り入れた音楽をつくったり、レコーディングでユダヤ人音楽家と組んだりしていた為、彼の存在はナチスにとって完全に邪魔だった。そんなとき、作曲されたのが『画家マティス』である。同名のオペラ作品に先行してつくられたこの交響曲は、ナチスへの批判やヒトラーの嫌いだった官能的なシーンがあり直ちに上演禁止にされてしまった。

その一連の事件を、ヒンデミットの才能を理解して支援していた当時のベルリンフィル常任指揮者のヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886–1954)が新聞に掲載したときのタイトルが『ヒンデミット事件』である。

ちなみにこのマティス、フランス表現主義で有名なマティスではなく、もっと昔のゴシック時代ドイツ画家マティアス・グリューネヴァルトの《イーゼンハイムの祭壇画》からインスピレーションを受けている。

第一楽章「天使の合唱」Engelskonzert
第二楽章「埋葬」Grablegung
第三楽章「聖アントニウスの誘惑」Versuchung des heiligen Antonius



ヒンデミットの曲は聴くのも演奏するのも、思わず眉間にシワが寄ってしまうようなものばかりだけど(チグハグで難解に感じる)はるか昔のゴシック時代の絵とヒンデミットの生きた新時代の音楽との融合のようで、とっても興味深い作品である。とにかく、おもしろいので、ちょうど今日からはじまった99年前の悲劇に思いを馳せて、ぜひ。



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