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【読書記録】リーダーシップとニューサイエンス

『ティール組織』の次本(嘉村賢州)というテーマで紹介もされており、前々からじっくり読んでみたかった本書『リーダーシップとニューサイエンス』。

英語での初版は1992年、邦訳出版が2009年という少し前に出版された本書ですが、2018年出版の『ティール組織』に連なる世界観を先取りしつつ、いち早く紹介してくれています。

先日、出版、読書会に関する、とあるオンライン・ミーティング中、

『そういえば、僕、マーガレット・ウィートリーの本ってまだ読んだことないんだよね。興味のある本はどんどん積読になっちゃってて…。』

という話が仲間から上がったので、

(よし、試しに読んでみよう!幸い自分は読書好き。何か、ポイントになる部分でもシェアできれば良いかも)

と、軽い気持ちで読み始めることにしてみました。

今回は、その中で印象的だったもの等をまとめた読書録となります。


一言で言うと、この本ってどんな本?

あくまで自分が読んでみた所感ですが…

経営コンサルタントであり、ニューサイエンスの世界観に感銘を受けた著者マーガレット・ウィートリーによる、新しい世界、組織の捉え方について紹介を行った本

と言うのが、自分なりの認識です。

先に紹介したように、本書が初めて出版されたのは90年代初頭です。

その時点で著者が感じていた、

既存の組織論…機械論的世界観に基づく物質的・官僚主義的なマネジメントを行う組織モデルへの違和感

物理学の発展を契機に新しく現れつつある生命論的・全体論的な世界観に基づく組織論の可能性の提示

以上2つが、本書の主だったメッセージのように見受けられます。また、

チームや組織がうまくいくためには、どうすれば良いのか?

強権的なリーダーシップにより、有無を言わせず実行させればうまくいくのか?

詳細な分析とデータに基づき、数字上の管理を粛々としかし徹底して行えば、それに見合った成果が得られるのか?

……いや、それだけではない何かが、大事な気がする。けれど、その何かって何だろう?

そんな、組織における価値観の転換期に、ニューサイエンスという切り口から、次なる組織像、世界像について紹介したものが、マーガレット・ウィートリーによる本書、と言うことができるかもしれません。

ニューサイエンスとは何か?

では、本書のタイトルにもあるニューサイエンスとは一体何でしょうか?

いくつかの文献を参照しつつ、まとめてみると、おおよそ次のようなことを表す用語のようです。

ニューサイエンスとは、二十世紀初頭の量子力学の発展に端を発する科学的なパラダイム・シフトが、科学以外の様々な領域や思考、認識、価値観においても広がり影響している一連の潮流のことを指す。この潮流は、様々な領域において、機械論的な世界観から、ホリスティック(全包括的)でエコロジカル(生態学的)な視点への転換を促しつつある。

二十世紀初頭において、デカルト=ニュートン科学が支えてきた機械論的世界観…すなわち、

世界は自動機械のように計測と計算によって観測することができ、未来を予測することもできる。

世界とは、要素還元的に対象を分類・分析し、それらの結果が組み上げられた総和である。

要素還元的に対象を分析・分類し、結果を解明する事で、計算と計測の確度を高めることができる。

…そう言った世界観が、大きく揺さぶられることになりました。

原子以下の極小の対象の観測、また、地球サイズ以上の極大の対象の観測を科学の探求の視野に置き始めた時、それ以前の科学的な理論・世界観の根拠となっていたデカルト=ニュートン科学の土台が足元から崩れてしまったと言うのです。

要素還元の極地=世界に絶対的・客観的なものは無い

どう言うことか?原子以下の粒子観測の例から、2つの視点で眺めることができます。

二十世紀初頭に至るまで、科学者たちは世界の構成要素について探求を続け、ついに原子発見に漕ぎつけました。次なる探求は、「原子は何でできているのか?」です。

原子以下の構成要素として粒子を仮定することができた時、粒子には同時に2つの性質があることが認められました。ある空間において観測する場合は粒子であり、また別条件で同じ粒子を観測すると波動(エネルギー)に姿を変えて観測される、と言うのです。

粒子はまた、観測者である科学者との関係性において、観測結果を変えると言う振る舞いを見せることもわかりました。

顕微鏡で科学者が何かを観測するためには、光の反射が必要です。

つまり、光が観測対象にぶつかり、それが跳ね返って顕微鏡へ、そして科学者の目へ到達することで対象は観測できるわけですが、極小の粒子を観測しようとする場合、光がぶつかることで対象が顕微鏡で見える領域から吹き飛んでしまい、どこにあるのかわからなくなってしまいます。

では、対象が吹き飛んでしまわないように解像度を粗くすると、今度は像がぼやけて正確に位置を特定することができなくなってしまいます。

このように、「何か対象を観測すると言う行為は、観測者自身が観測と言うプロセスに参加することではじめて成り立つ」「現実を形作る絶対的な要素の探求を突き詰めていくと、最後は曖昧な結果や確率論、観測者と対象の関係性のあり方に行き着く」と言う事実に行き着くことになりました。

絶対的な尺度や数値を提供してくれるはずの科学が、産業の発展(≒人類の発展)に貢献してきた科学が、最後に行き着いた探求結果は、曖昧な結果や確率と言う不安定なものだったのです。

では、科学においてすらそうであったのなら、私たちが普段生活している社会や、何気なく当たり前だと思っているあらゆる常識や前提はどうなってしまうのでしょうか?

ここからが、ニューサイエンスの世界観に触れた経営コンサルタントであるマーガレット・ウィートリーの視点の紹介となっていきます。

ここからは、すべてを取り上げず、特に印象的だったリーダーシップ×ニューサイエンスの記述について、取り上げてみたいと思います。

私たちのいる世界は、どんな場所か?

以下は、デカルト=ニュートン科学的世界観と、ニューサイエンス的世界観の記述です。

ニュートンの考えた宇宙では、空間と言うのは言語に絶する孤独感のある虚空だった。物質は、孤軍奮闘しながら、その虚空を動いていく。いわば、めったに人に出会さず、どこまでも無限に広がる大きな溝を永久に横断していく一人旅だった。

「リーダーシップとニューサイエンス」p73

ところが、量子の世界では空間に何か異変が起きた。空間はもはや孤独な場所ではなくなった。空間は、今では「場」で満たされていると考えられている。場とは、目に見えない、非物質的な影響であり、宇宙の基本的な実質だ。場を見ることはできないが、その影響を観測することはもちろんできる。

「リーダーシップとニューサイエンス」p73-74

もし、今、私たちが過ごしている空間が「場」に満たされているとしたら、日々の目に見えるものがどんな風に違ってくるでしょうか?

世界の物質を形作る粒子は、存在であり、エネルギーであるという二面性を持つということを先述しましたが、この粒子はまた、他のエネルギー源との相互作用を通して生じる短命な存在でもあります。

目に見えない空間には「場」が充満しており、その「場」には目に見えないエネルギーが相互作用を起こしながら、その都度粒子の発生と消滅、存在からエネルギーへ、エネルギーから存在への移行を繰り返している。

私たちが普段生活している世界は、魚が水の満たされた場所を泳ぐように、相対する相手と自分の間には、目に見えない「場」が存在し、相互交流が生まれている。

そう捉えた時、私たちは一人ひとりが孤独の中に生きるのではなく、関係性の中で生きている…そんなイメージを描いて体感することは難しい事ではありません。

組織においては、どうでしょうか。

組織を動かす力、権力であれその他の力であれ、それはエネルギーですから、組織全体に流れていなければなりません。特定の役割や職位、レベルによって制限されるのではなく、関係性が生むエネルギーをどのようにしたら、私たちの組織に行き渡らせることができるのでしょうか?

量子物理学の発展から見えてきた世界のあり方から、私たちが普段所属している世界を眺めてみた時、どんな景色が見えてくるでしょうか?

組織のプロセスに主体的に参加することの多面的な可能性とは?

ニューサイエンス的世界観においては、現実は、観測者と観測対象との関係性によって形作られ、観測されると先述しましたが、これを組織の文脈に置き換えてみると、どんな風にこの視点を活用していけるでしょうか?

まず、本書においては、観測と参加について、以下のような記述がなされています。

物理学者のジョン・アーチボルド・ホイーラーは、参加型の宇宙を熱心に提唱した。参加型の宇宙とは、ある情報を探す行為が、探そうとしていた情報を生じさせ、同時に他の情報を観測する機会を排除するような環境だ。ホイーラーによれば、宇宙全体が、観測から現在を作るだけではなく、過去を持つくる参加型のプロセスだ。あらゆる物事に現実性を与えるのは、何が起きているか気づいている観測者の存在なのだ。私たちは、一つの様相を実験することを選択する時、他のものを見る能力を失う。何かを計測するということは、常に得る情報よりも失う情報の方が多い。それは、決して後戻りできない、他の可能性を永遠に箱から閉め出す行為なのだ。

「リーダーシップとニューサイエンス」p99

リーダーであれ、従業員であれ、何が組織において起こっているのか?を観測しようとする時、それぞれのレンズで物事を見、多様な現実の解釈の可能性を無意識に切り捨ててしまいます。

また、従来のマネジメントモデルにおいては、データの解釈は一部の管理職や専門家に委ねられ、人目に触れることなく消えていく現実も存在しています。

では、何が起こっているのか?をより豊かな解釈を持って眺めるためには、どうすれば良いのでしょうか?

コンサルタントである著者は、数百人が3日間にわたり、外部の利害関係者も含めて組織の過去・現在・未来のビジョンづくりを行い、多様な視点からの解釈を取り込むことで、システムの全体像から新たな現実が解釈されることがあった、と紹介しています。

また、このようなプロセスに参加することは、一人ひとりの現実が形作られるだけではなく、一人ひとりの中に組織に対するオーナーシップを持つことを促すことも量子論的な立場から著者は言及しています。

所有意識を醸成する最善の方法は、実行する責任のある人に自分自身で計画を立てさせることだと私たちは知っている。単にお仕着せの書式で他者に計画を提出させるだけでは、誰も成功しない。計画の素晴らしさや正しさはどうでもいい−計画をあってるプロセスに関わらせてもいないのに、署名を求めてもうまくいくわけがない。

「リーダーシップとニューサイエンス」p104

このような視点を取り入れてみると、いわゆるホールシステム・アプローチ、多様な利害関係者や、上司部下を問わず部署横断で物事を理解したり、課題に取り組むことの意義といったものも違った見え方がしてくるかもしれません。

混乱状態の組織が崩壊せず、組織に秩序をもたらす『自己準拠』とは何か?

『withコロナ』というキーワードも報道やネット上に現れるようになった現在、構造的にも精神的にも硬直しきった組織よりも、外部環境からの影響や必要に応じて適応し、その時に合った構造を創り上げる能力を持った組織の方が、生き残りやすい。

そういったイメージは、描きやすい状況かもしれません。

このように、必要に応じて適応し、その時に合った構造を創り上げるプロセスを本書では『自己組織化』と表現しています。

現象や組織等を要素還元的にではなく、全体論的に、一時的にではなく時間軸を持って眺める事で、現象や組織等には特有のパターンを生じさせるシステムが存在することが、ニューサイエンスの潮流によって注目を集めるようになりました。

では、機械のような組織から、生命体のような自己組織化の力を発揮していく組織になっていくためには、どのようなことが必要になるのでしょうか?

著者は本書の中で、組織と情報の関係、とりわけ、不安な情報との関係を見直す必要があると主張しています。

開放系においては、生存能力を維持するために、システムが変化し、成長できるように自分自身のバランスを崩し、非平衡の状態を保つ。環境との開かれた交流に参加し、自分自身の成長のためにそこにあるものを利用する。自然の有機体はすべて、私たち人間も含め、このように振る舞っている。

「リーダーシップとニューサイエンス」p118

このように、あえて自分を脅かし、バランスを崩し、成長を受け入れさせるような情報を積極的に取り入れていくことが重要になるというのです。

また、自己組織化の力を発揮していくための要素として、著者は『自己準拠』というキーワードを用意しています。以下、『自己組織化』および『自己準拠』に関する記述をいくつか紹介します。

自己組織化システムが不安定を受け入れることは、あまりにも予測が成り立たず、気まぐれにさえ見えるかもしれないが、そうではない。自己組織化システムは、深い中心、つまり自分が何者で、何を必要とし、自分を取り巻く環境で生き残るには何が要求されているかをはっきり知っていることから安定する。(中略)システムが成熟し、自己認識がしっかりしてくるにつれて、環境との共同作業はもっとうまくなる。手に入る資源をもっと効果的に利用し、自己を持続させ、強化する。次第に安定性も増していき、環境のさまざまな要求から身を守れるようになる。

「リーダーシップとニューサイエンス」p125-126

あらゆる自己組織化システムにとって不可欠な第二のプロセスは、自己準拠のプロセスだ。環境が変わり、自分も変わる必要があるとシステムが気づく時、システムは常に自己矛盾がないように変化する。(中略)つまり自己を保持し、自己を創出することに専心するシステムだ。

「リーダーシップとニューサイエンス」p126

強いアイデンティティを中心に組織ができている企業は、より安定し、より自律したシステムをつくる際の自己準拠が果たす役割がよくわかる好例だ。自分は何者か、自分の強みは何か、何を達成しようとしているのか、これがわかっている組織は、環境の変化に聡明に対応できる。何をするにしても、このはっきりした自己意識に基づいて決定されるのであって、単に新しいトレンドや市場にふりまわされてのことではない。(中略)はっきりしたアイデンティティがあると、環境のなすがままにされることが少なくなり、環境にどう対応するか決定する自由度が高まる。

「リーダーシップとニューサイエンス」p126

以上のような記述から、『ティール組織』における存在目的について考えずにはいられませんでした。

存在目的という言葉は、組織形態によっては新しい考え方だ。オレンジ組織は、組織を機械ととらえている。(中略)この見方に立つと、機械がしなければならないことを決定するのがCEOと経営陣の役割だ。ティール組織は、組織を生きたシステムと考えている。自らの情熱を持ち、自らが何者かを認識し、自らの創造性を発揮し、自らの方向感覚を持った独立した存在なのだ。そのシステムに何をすべきかを指示する必要はない。ただその存在の声に耳を傾け、連携し、ダンスに加わり、それが私たちをどこに連れて行ってくれるのかを悟れば良いのだ。

フレデリック・ラルー「ティール組織」p334

一通りまとめてみての所感

ふとしたきっかけに読み始めた本書でしたが、今までの自分の学びのプロセスの中にある一冊であったことが確信できました。専門用語が注釈なしに前触れなく頻出するため、読みやすい本かといえば、そうではなりません。

このnoteでも実際に触れた『自己組織化』や『場』、直接触れることがなかった『カオス』『オートポイエーシス』『散逸構造』等いくつかの用語について、明確に定義しないままに記述に用い、『こんな様子もまた、〇〇に見られる特徴だ』のように表現することで、読者に誤解を招くこともあるかもしれません。

ですが、それぞれの用語の背景に触れ、丁寧に向き合う中で著者の描いた世界観が情報的な理解だけではなく、情緒的な、イメージ的な理解として腹落ちするような、そんな感覚を得ることができました。

個人的には、ニューサイエンスというものは、馴染みのないものですが、歴史的な事実として物理学の発展が、人々の世界観に影響していると体感できたことが、大きな収穫だったように思います。

さらなる探求のための参考文献

この読書録をまとめるにあたり参照した書籍や、さらに探求を深めていくための書籍等を以下にまとめておこうと思います。さて、自分はどの本を次に読み進めていきましょうか。

●フリッチョフ・カプラ『ターニング・ポイント』
物理学者であったカプラの、ニューサイエンスの旗手としての立場を明らかにした代表作。『リーダーシップとニューサイエンス』著者のマーガレット・J・ウィートリーがニューサイエンスに関心を持つことになったきっかけの本でもある。

●ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィ『一般システム理論』
生物学者としてキャリアをスタートしたベルタランフィもまた、要素還元主義的な研究では生物体、生命現象の本質に近づけないとの結論に至った。『全体は部分の総和以上のものである』『すべてがその他すべてに依存する』という、関係性から紡がれるシステムの存在を認め、生物学以外の物理学、社会学その他にも応用可能な一般法則として、1945年に『一般システム理論』を提唱している。

●トーマス・クーン『科学革命の構造』
ニューサイエンスに触れると必ずと言って良いほど出てくる『パラダイム』という用語がある。現在、様々な領域で用いられる『パラダイム』という用語も元々は、科学史家トーマス・クーンによって、科学技術の発展において人々に広く受け入れられている業績であり、ある一定期間(現行のパラダイムでは解決できない問題が発生するまでの間)、科学者にとっての問い方・考え方の手本を与えるもの、として提出された考え方であった。

●アストリッド・フェルメール他『自主経営組織のはじめ方』
先述した『ティール組織』の関連書籍であり、『自己組織化する組織』『自主経営組織』をつくるためにどのようにすれば良いのか?「フレームワーク」、「解決指向のコミュニケーション(SDMI)」と言った方法論等も紹介してくれている。『リーダーシップとニューサイエンス』の描いている『自己組織化』と照らし合わせて読み進めてみるのも良さそう。


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