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【読書感想】「働く」を問い直したい人へ送る本

こんにちは、Yukiです。

今回は、中島義道(著)『働くことがイヤな人のための本』を取り上げようと思います。

仕事に関する本はたくさんありますが、本書はそれらとは大きくことなります。どこが違うのかについては後ほどに譲るとして、ここでは違うに留めたいと思います。

内容

まず、本書には年齢も性別も個人を取り巻く状況も全く異なる、A、B、C、Dという4人の人物が登場します。彼らと中島さんの対話を通じて、仕事に関するあれこれを考えていきます。一例を挙げれば、成功について、仕事における人間関係について、お金についてです。どれも一度は考えたり、悩んだことがあるテーマではないでしょうか。

そうしたテーマについて中島さんなりの考えが展開されていきますが、一般的な「働けば良いこともある」とか「努力は報われる」といった美辞麗句を並べ立てるわけではありません。その逆で、本書ではとことん現実が語られます。

その現実とは、この社会というのは「理不尽である」ということです。中島さんはある箇所でこう述べています。

すなわち、人生とは「理不尽」のひとことに尽きるということ。思い通りにならないのがあたりまえであること。(p.40)

また別の箇所でも同じように言います。

私がひきこもっている青年たちの頭にたたき込みたいこと、それはこの社会とは「理不尽」のひとことにつきるということだ。(p.149)

「世の中は理不尽である」という言葉は、他の本ではなかなか見かけないのではないでしょうか。その理由は簡単で、そんなことを言ったら読者からは歓迎されないからです。しかし、それによって本書は大半の他の本とは一線を画します。

また、「理不尽だ」と言いっぱなしではありません。中島さんはこう言います。

割り切ろう、納得しようという衝動をなるべく抑えて、事態を正確に見なければならない。(p.123)

つまり理不尽なものごとに直面したときに、目をそらすなと言いたいのだと思います。時に人は、どう考えても理不尽な事柄と向き合わなければならない時があります。そんな時に、「考えるのを辞めよう」と完全に目をそらしたり、「どうせ何したって無駄なんだから」と開き直ったりします。

このように人というのは、割り切りたい、納得したい生き物です。しかしそこでそうした態度を取るのではなく、理不尽にとことん向き合えと言います。

つまり、何ごともこうと決まらないのだ。何ごとも正確には見通せないのだ。割り切れないのだよ。これがすなわち人生なのであり、とすれば生きようとするかぎり、その中に飛び込んでいくよりほかはない。(p.150)

ここで取り上げたことは、一見すると働くことと関係がないように思えるかも知れません。しかし、現代社会においては生きていくためには働かざるを得ません。労働と人生は密接に関係しています。そして、それらの共通項の1つが「理不尽さ」ではないでしょうか。

理不尽さは本書でたくさん取り上げられるので、興味を持たれた方は是非読んでみてください。

感想

本書では、美辞麗句が並び立てられていない分、地に足ついた言葉が語られている気がします。普通、「この世は理不尽だ」とは言いません。そういったことは、多くの場合求められていないからです。にもかかわらず、平気でそういうことを言う本に初めて出会いました。

中島さんは、「理不尽を割り切ったり、納得したりすることなく、正確に見ろ」と言いますが、それはかなり難しいことなのではないかと感じました。その理由はすでに語られているように、人は割り切りたい生き物であり、納得したい生き物だからです。それに加えて、人間はバイアスから逃れることはできません。

だとすると、「理不尽をあるがまま見つめる」のは至難の業ではないでしょうか。

とはいえこの部分は、言いたいことがわかる気がします。
僕は以前、『「分かりにくい」を大切にしたい』という記事を書きました。

この記事で言いたかったことは、世の中の物事の多くは白黒ハッキリしないし、曖昧である。それらを無理にでもハッキリさせようとすると、かえってもとの事柄が歪められてしまうのではないか。そうではなく、気持ち悪いし不安に思うかも知れないけど、白黒ハッキリしなかったり、曖昧なものをそのままにしておくのも大切ではないか、ということです。

この記事の趣旨と、中島さんの考えにはどことなく通ずるものがあるように感じます。

また、本書の別の箇所で僕がとても気に入っているところがあるので、長いですがそのまま引用します。

世の中とはまことに不合理なことに、成功者のみが発言する機会を与えられている。成功者の発言は成功物語である。途中いかに苦労しても、いかに理不尽な目にあっても最終的に成功すれば発言のチャンスは回ってくる。彼らが自分の成功物語を個人的な体験として語るだけなら、まだ無害である。しかし、彼らのうち少なからぬ者は、成功の秘訣を普遍化して語ろうとする。「こうすれば成功できる」という一般論を語ろうとする。じつはたいそうな天分とそれ以上に不思議なほどの偶然に左右されてきたのに、誰でも同じように動けば必然的に成功が待っているはずだと期待させる。それが実現できない者は怠惰なのであり、努力が足りないのであり、適性を誤っているのだと力説する。これは大嘘である。(p.54)

ビジネス書や自己啓発本を読んでも必ずしも成功できない理由が、ここに詰まっていると思います。ちなみに、「天分=てんぶん」とは生まれつきの才能のことです。

ここまで、本書を肯定的に書いてきましたが、全面的に賛成というわけではありません。中島さんが現実を突きつけてくるが故に、ドキッとしたり、少し傷ついたり、反発したくなるような箇所もありました。

それでも、理不尽という刺々しいものにベールを覆い被せることなく、ありありと見せてくるところに僕は惹かれました。

終りに

先述したように、生きていくためには働かねばなりません。人生と密接に結びついているからこそ、誰しも「なぜ働くのだろうか」と悩んだり、問いかけたくなることがあります。

本書は答えは提示してくれないかもしれませんが、ヒントをたくさん持っています。普段は忙しくてあまり考えないようにしていた問いに、この機会にじっくりと向き合うのはいかがでしょうか。

ここまで読んでいただきありがとうございました。




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