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雪乃兎の短編小説

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noteにて掲載した短編をまとめてます。
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【短編小説】言えない彼女と彼

【短編小説】言えない彼女と彼

「ねぇ、なんでよりによってここなの?寒いんだけど!」

神奈川県江の島の恋人の丘、龍恋の鐘の前で似つかわしくない怒号が響いた。

「しょうがないだろ。日にち的に近場しか行けなかったんだから」
「だからって、江の島はなしでしょ。寒いし、3月だからしらす丼も食べれないし、寒いし」

彼女は鐘を見上げた。

「この鐘鳴らしても、意味ないし」

最後の一言は小さかった。

2人は已己巳己なぐらいよく似てい

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【短編小説】コロナ禍の恋は難しい

【短編小説】コロナ禍の恋は難しい

2020年、全世界でコロナウイルス感染症が蔓延した。
海外ではロックダウンが行われ、街から人が消えた。
それは日本でも例外ではなく、ロックダウンこそされなかったものの、おうち時間だの、不要不急の外出は控えるだの言われるようになり、街は閑散とした状態となった。

コロナは世界中の人たちに大きな影響を与え、経済を始めとしたいろんなものに大打撃を与えた。
そしてその影響は、私の生活も例外なくやってきた。

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【短編小説】春の雨は桜を咲かす

【短編小説】春の雨は桜を咲かす

「こりゃ催花雨やね」
「さいか、う…?」
「桜に早く咲けっていう雨や。ちょっと来るの早かったね」

大学試験合否結果発表の日。
奈良県吉野山で鮎を焼いているおばあちゃんがそう言った。

悪い意味で完全燃焼してしまい、家で合否通知を待つなんて到底できなかった私は電車に揺られて小旅行をすることにした。
しかし、終点で電車を降りると吉野山は雨に濡れていたし、目当ての桜もあまり咲いていなかった。

でも、

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